辻村深月著の『鍵のない夢を見る』は、文庫本で269頁の暗い色調の五編の短編からなる作品集です。
日常からのちょっとした逸脱に翻弄される女性達を描いた第147回直木賞の受賞作で、個人的には好みではありませんでした。
『鍵のない夢を見る』の簡単なあらすじ
第147回直木賞受賞作! !
わたしたちの心にさしこむ影と、ひと筋の希望の光を描く傑作短編集。5編収録。
「仁志野町の泥棒」誰も家に鍵をかけないような平和で閉鎖的な町にやって来た転校生の母親には千円、二千円をかすめる盗癖があり……。
「石蕗南地区の放火」田舎で婚期を逃した女の焦りと、いい年をして青年団のやり甲斐にしがみ付く男の見栄が交錯する。
「美弥谷団地の逃亡者」ご近所出会い系サイトで出会った彼氏とのリゾート地への逃避行の末に待つ、取り返しのつかないある事実。
「芹葉大学の夢と殺人」【推理作家協会賞短編部門候補作】大学で出会い、霞のような夢ばかり語る男。でも別れる決定的な理由もないから一緒にいる。そんな関係を成就するために彼女が選んだ唯一の手段とは。
「君本家の誘拐」念願の赤ちゃんだけど、どうして私ばかり大変なの? 一瞬の心の隙をついてベビーカーは消えた。(「BOOK」データベースより)
『鍵のない夢を見る』の感想
物語の全体を貫くトーンの暗さもそうですが、何編かの物語には全く救いが感じらず、直木賞受賞作なのですが、個人的な好みには反している作品集でした。
トーンが暗いだけでも若干苦手なのに、そこに救いも無ければ何のためにこの物語を書いたのだろうという気になってしまいます。
幼馴染とのつらい思い出の結末、男のいない女の内心の葛藤、どうしようもない男と離れられない女、夢しか追えず独善的な男とから離れられない女、赤ちゃんの泣き声に追い立てられる女。
それぞれの女の内心を深く突き詰めて、読者に提示していて、文学として表現力や文章の巧拙など、私では分からない何かが評価されているのでしょう。
確かに、各物語の主人公である女たちの心の移ろいも含めての描写は、読み手の心に迫るものがあり凄いと思いました。
でも、だからこそ、と言えるのかもしれませんが、そうした心情を持つ女の物語への反発も激しいのでしょう。
ずるずると状況に引きずられて抜け出せなくなっていく女が描写されていて、男の私には良く分からない心裏もあるのですが、特に女性にはこの世界観にはまる人も多いかもしれません。
本書『鍵のない夢を見る』が出版されたのが2012年5月で、私が最初に辻村深月という作家の作品を読んだ最初の作品でした。
それ以来、本書に苦手意識を持った私は辻村深月の作品は読んでこなかったのです。
それほどに本書は2018年の本屋大賞を受賞した『かがみの孤城』や『ツナグ』といった少年、少女を主人公に据えたいわゆる青春もの呼ばれる作品群とは異なっていたのです。
物語にエンターテインメント性を求める傾向の強い私は、『かがみの孤城』に接した後は辻村深月の作品のファンとはなるものの、本書は少々苦手とする作品なのです。
とはいえ、今では辻村深月の名前を見ればその作品を手に取るようになっています。