本書『四日間の奇蹟』は、文庫本で508頁という長編のファンタジー小説で、第一回『このミステリーがすごい!』大賞の金賞受賞作品です。
なかなかに感動的な物語ですが、押し付けがましくなく読みやすい小説でした。
『四日間の奇蹟』の簡単なあらすじ
第1回『このミステリーがすごい!』大賞・大賞金賞受賞作として、「描写力抜群、正統派の魅力」「新人離れしたうまさが光る!」「張り巡らされた伏線がラストで感動へと結実する」「ここ十年の新人賞ベストワン」と絶賛された感涙のベストセラーを待望の文庫化! 脳に障害を負った少女とピアニストの道を閉ざされた青年が、山奥の診療所で遭遇する不思議な出来事を、最高の筆致で描く癒しと再生のファンタジー。(「BOOK」データベースより)
自らもピアニストであった如月敬輔は、自閉症でありながら天才的なピアニストでもある楠本千織という少女を連れ、とある療養施設にたどり着いた。
そこにいた職員の一人の岩村真理子は高校時代の如月敬輔を知っていて招いたらしい。
次の日、真理子と千織が散歩をしているときにヘリの墜落事故に二人が巻き込まれてしまい、信じられないことが起きるのだった。
『四日間の奇蹟』の感想
何といってもまずは文章の美しさを挙げなければならないでしょう。
丁寧に語られるその文章が新人の手になるものだとはとても信じられません。そして、その新人の手により紡ぎだされる物語が素晴らしいものなのです。
「知的障害や発達障害などのある者のうち、ごく特定の分野に限って優れた能力を発揮する者」のことを「サヴァン症候群」というのだそうです。
本書『四日間の奇蹟』の楠本千織もそうで、敬輔は、ピアノに天才的な才能を発揮するものの他のことができない千織の面倒を見ながら、各地で開かれる演奏会を巡っています。
そして、ある演奏会場で敬輔は高校時代の後輩だった岩村真理子と出会います。でも事故により真理子と千織の人格が入れ替わってしまうのです。
この敬輔と千織、それに真理子が遭遇した四日間の出来事を描いたファンタジックな小説です。
一言で言えば「単なる人格の入れ替わり」ですが、話の展開がうまい。
青春映画の名作と語られることの多い大林宣彦監督の『転校生』と同じテーマですが、内容は全く異なり、ひたすらに真理子の「想い」と敬輔のその想いに対する葛藤が描かれています。
ここらの捉え方で本書『四日間の奇蹟』を名作という人と、冗長という人と別れるようです。
ファンタジー性を強調しようとしてか、学術的な事柄をも丁寧に描いてある点を冗長という人もいれば、私のように物語のリアリティを増していていい、と思う人もいます。
また、その後のファンタジックな展開も受け入れることができないという人もいれば、それはそれで物語として見事に成立していると捉える人もいるのです。
そして、この物語がデビュー作だというのですから驚きます。人間心理の描写などとてものこと新人の文章だとは思えませんでした。
私にとっては感動的な小説として挙げるときは必ず入る作品だと言えます。