『マル暴ディーヴァ』とは
本書『マル暴ディーヴァ』は『マル暴シリーズ』の第三弾で、2022年9月に刊行された、350頁の長編の警察小説シリーズです。
本書ではまた新しいキャリア警察官も登場し、ユーモアに満ちたこのシリーズの作品世界も安定してきてさらに面白く感じた作品でした。
『マル暴ディーヴァ』の簡単なあらすじ
弱気なマル暴刑事・甘糟達男は、コワモテの上司・郡原虎蔵と、麻薬売買の場と噂されるジャズクラブに潜入する。惚れ惚れするような歌声を披露する歌姫・星野アイの正体はまさかのー!?“任侠”シリーズの阿岐本組の面々や警視総監も登場、事態は思いがけない展開にー。(「BOOK」データベースより)
甘糟が『任侠シリーズ』の阿岐本組での情報収集から帰ると、仙川係長からジャズクラブ「セブンス」への銃器・薬物班のガサ入れを手伝うように言われた。
甘糟と郡原が下見に行った「セブンス」では、女性ボーカルの星野アイの歌が素晴らしいもので、意外なことに群原がジャズに詳しく、何よりその店に警視総監がお忍びで来ていたのだ。
その後「セブンス」にガサ入れをするが空振りに終わった後、警視総監から呼び出しがあり「セブンス」へ戻ると、「セブンス」のオーナーでマスターが警察庁のOBであることを知らされる二人だった。
そのオーナーによると、シマジ不動産の島地という男が「セブンス」を手に入れたいらしく、嫌がらせにやったことだろうというのだった。
『マル暴ディーヴァ』の感想
本書『マル暴ディーヴァ』は新しい人物も登場してくる『マル暴シリーズ』の第三弾であって、シリーズの他の作品と同様に軽く読めて、その上面白いという今野敏らしい作品でした。
登場人物としては、主人公の北綾瀬署刑事組織犯罪対策課・組織犯罪対策係の甘糟達夫巡査部長、そしてその甘糟は先輩刑事である郡原虎蔵とコンビを組んでいることは同じで、上司が仙川という係長です。
この係長が前巻も登場していたかは手元に本がないため不明で、分かり次第更新します。
また、ガサ入れに行った先の「セブンス」というジャズクラブで新しい人物が登場します。
一人目が、その店の歌姫(ディーバ)の星野アイという歌手で、本名は大河原和恵という警察庁刑事局捜査支援分析管理官である現職のキャリア警察官です。
加えて、この星野アイが歌っていたジャズクラブ「セブンス」のオーナーが警察庁OBである谷村政彦元警視監であって、これに前巻の『マル暴総監』に登場した栄田光弘警視総監まで客として登場します。
ただ、この大河原と谷村という現・元の両キャリアは今後もこのシリーズの常連となるかはいまだ不明であり、ですからジャズクラブ「セブンス」の相沢孝典というバーテンダーもこの後登場するかは不明です。
他に新たに、キャリアではない東美波巡査という交通課の巡査まで加わっていますが、この人物も同様レギュラーとなるかは不明です。
さて、本書『マル暴ディーヴァ』の物語の流れですが、基本的には「セブンス」というジャズバーの乗っ取りを企てているシマジ不動産の島地進の思惑を潰し逮捕することが目的です。
スピンオフである本シリーズの本編の『任侠シリーズ』に登場する阿岐本組の代貸日村誠司によれば、このシマジ不動産は佐木山組のフロントだということでした。
そこに、島地と一緒に「セブンス」にやってきたのがフラットラインというラウンジのオーナーである斉木一という男です。
この斉木を手掛かりに、島地が隠しているであろう薬物を見つけ、逮捕に持ち込もうというのです。
その過程で、所轄の綾瀬署署員である甘糟や群原と、島地を挙げたい綾瀬署銃器・薬物犯罪対策班班長の金平行雄らと、警視庁薬物銃器対策課の宮本達とが協力し捜査に当たるのです。
その過程で、自分の実績になるか否かだけに関心がある上司の仙川係長の思惑なども絡み物語は進みます。
本『マル暴シリーズ』は、マル暴、つまりは暴力犯対策班に属してはいるものの、気が弱く、出世には全く関心がない甘糟が結果的に事件解決に役に立つ働きを見せるというギャップこそが眼目です。
ただ、物語自体はまさに警察小説であり、事件解決に警察官たちが奔走する姿が普通に描かれています。
そこに、『任侠シリーズ』の阿岐本組の組員たちがほんの少しだけ顔を見せ、甘糟の情報収取の手伝いをする、というのがパターンになっているようです。
そんな中、本書『マル暴ディーヴァ』では、前巻『マル暴総監』で登場してきた栄田警視総監に加え、大河原和恵という警察庁刑事局捜査支援分析管理官と、警察庁OBである谷村政彦元警視監という二人のキャリアと元キャリアが新たに登場し、変な物語世界に色を添えています。
彼らが今後本シリーズのレギュラーになるかは不明ですが、少なくともユニークな登場人物であることは間違いないでしょう。
普通は嫌われ者として描かれることが多いキャリア警察官ですが、『隠蔽捜査シリーズ』の竜崎にも見られるように、今野敏という作家の作品ではキャリアはそれなりに優秀な存在としてその意義を認め、登場させることが多いようです。
その中で、ユーモアに包まれた本書の存在は楽しく読める警察小説として希少価値があると言えると思います。
そんなユニークなキャリア警察官が存在する一方、作者の今野敏は、群原のような現場で地道に働く警察官のおかげで日本は高い犯罪検挙率を誇っていることを示しています。
主人公である甘糟が、群原たちの存在を認めながら、では「僕みたいな刑事が検挙率を下げているんだろうか。」と自問する姿はほほ笑ましくも、軽く胸を打ちます。
今後、本『マル暴シリーズ』どのように展開するかは不明ですが、『任侠シリーズ』と同様に、本シリーズの更なる展開が読めることを願い、続巻を待ちたいと思います。