『機龍警察〔完全版〕』とは
本書『機龍警察』は『機龍警察シリーズ』第一弾の作品で、文庫版で400頁の、現代日本を舞台にした異色の長編警察小説です。
SFのようでありアクションも満載の、それでいて舞台背景も丁寧に書き込まれている、面白さ満載の小説でした。
『機龍警察〔完全版〕』の簡単なあらすじ
テロや民族紛争の激化に伴い発達した近接戦闘兵器・機甲兵装。新型機“龍機兵”を導入した警視庁特捜部は、その搭乗員として三人の傭兵と契約した。警察組織内で孤立しつつも、彼らは機甲兵装による立て篭もり現場へ出動する。だが事件の背後には想像を絶する巨大な闇が広がっていた…日本SF大賞&吉川英治文学新人賞受賞の“至近未来”警察小説シリーズ開幕!第一作を徹底加筆した完全版。(「BOOK」データベースより)
警視庁の通信指令室より指令を受けた巡回中のパトカーが現場に駆け付けると、そこで見たものは「キモノ」と称される二足歩行型軍用有人兵器「機甲兵装」だった。
パトカーを一瞬で踏み潰した「機甲兵装」は江東区内を滅茶苦茶に走り回り、多大な人的物的被害をもたらした後、地下鉄有楽町新線の千石駅に停車中の地下鉄車両を人質に立て籠るのだった。
『自爆条項〔完全版〕』について
まず、本書は〔完全版〕と銘打たれています。
私は従来の版しか読んでいないので、このサイトは正確には間違っていることになりますが、書籍としては最新のものを表示したいので、表記およびリンクは〔完全版〕を表示しています。
作者の当初の思惑とは異なって、かなりの大河小説になってきているので最初の第一弾『機龍警察』そして第二弾の本書『機龍警察 自爆条項』を〔完全版〕として加筆修正されたものでしょう。
なお、作者月村了衛の「オフィシャル・ガイド」によれば、「〔完全版〕は第2弾の『自爆条項』までで、今後『暗黒市場〔完全版〕』などは出ません。」と明記してあります。
『機龍警察〔完全版〕』の感想
「龍機兵(ドラグーン)」とは、「機甲兵装」つまりはパワードスーツのことです。R・A・ハインラインの『宇宙の戦士』に出てくるパワードスーツがその始まりでしょうか。
より身近なもので言えば、『機動戦士ガンダム』に出てくるモビルスーツがあります。操縦者が乗り込み、その動作が反映される外装装置ということになります。
近時の映画で言えば『パシフィック・リム』があります。しかし、あちらは八十メートル前後の大きさがありますが、本書のそれは三メートル程です。
アニメ『攻殻機動隊』を挙げる人もいるようです。しかし、少々ダークなトーンの側面を見ればそうかもしれませんが、両作品共に世界観が違う、と私は思いました。
確かに、本書『機龍警察〔完全版〕』の物語の世界観はコミックの『機動警察パトレイバー』(下掲イメージはKindle版)によく似ています。その小説版と言ってもいいかもしれません。
ただ、『機龍警察〔完全版〕』の世界感はより濃密で、登場人物それぞれの性格付けが丁寧に為されており、重厚な小説世界が構築されています。その世界を舞台に展開されるアクションは読みごたえがあり、飽きさせません。
本書『機龍警察〔完全版〕』の主人公は警視庁内に設けられた「特捜部」ということになるのでしょう。
本『機龍警察シリーズ』では、すくなくともシリーズの序盤では作品毎に物語の進行の中心となるたる人物が異なり、その人物の過去と現在、そしてメインとなる事件、その解決の物語が語られます。
第一作である本書では警察組織の嫌われ者となっている「特捜部」の現在が描かれ、部長の沖津旬一郎警視長や、城木貴彦、宮近浩二といった理事官、技術的側面を管理する鈴石緑技術主任などが登場します。
しかし、何といっても特徴的なのは「龍機兵」を操縦するのが元傭兵である姿俊之、元ロシア警察官のユーリ・オズノフ、元IRAのテロリストのライザ・ラードナーだということです。
何故この三人なのか、ということも一つの謎であり、シリーズの中で少しずつ明かされていきます。そして、本書ではまず姿俊之を中心として物語が進みます。
SF好きな人以外には本書の設定は受け入れにくいかもしれません。でも、そこを少しだけ我慢して読んでもらえれば、内容の濃い物語を楽しめる筈です。
ただ、決して明るい物語ではありません。どちらかと言えば重めの雰囲気ではあります。
しかし、ほかでも書いたように、シリーズ二作目の『機龍警察 自爆条項』は日本SF大賞を、三作目の『機龍警察 暗黒市場』は吉川英治文学新人賞を受賞し、更に「このミステリーがすごい!」でも高評価を得ているのです。
それほどに面白さは保証付きだと思います。