『秋麗 東京湾臨海署安積班』とは
本書『秋麗 東京湾臨海署安積班』は『安積班シリーズ』の第二十一作目で、2022年11月に352頁のハードカバーで刊行された、長編の警察小説です。
特殊詐欺事案を扱った現代の世相をさらに一ひねりした物語といえ、いつも通りの安定の面白さを持った作品です。
『秋麗 東京湾臨海署安積班』の簡単なあらすじ
青海三丁目付近の海上で遺体が発見される。身元は、かつて特殊詐欺の出し子として逮捕された戸沢守雄という七十代の男だった。特殊詐欺事件との関連を追う中、遺体が見つかる前日に戸沢と一緒にいた釣り仲間の猪狩修造と和久田紀道に話を聞きに行くと、二人とも何かに怯えた様子だった。安積たちが再び猪狩と和久田の自宅を訪れると既に誰もおらず、消息が途絶えてしまうー。(「BOOK」データベースより)
『秋麗 東京湾臨海署安積班』の感想
本書『秋麗 東京湾臨海署安積班』は、冒頭にも書いたように今野敏の安定のシリーズ作品でした。
本『安積班シリーズ』の主人公である安積剛志警部補が勤務する東京湾臨海署の鼻先の海で浮いている遺体が発見されます。
被害者の身元はSSBC(捜査支援分析センター)の顔認証システムのおかげですぐに判明したのですが、戸沢守雄というその被害者は特殊詐欺に加害者として関わっていたことが判明します。
そこで、安積らはその件を担当した葛飾署の生活安全課生活経済係に行き、係長の広田芳明の話を聞くことになるのでした。
この広田芳明という係長が今回の事件のスパイスとなりますが、間延びしている、とでも言えそうな話し方をする刑事ではあるものの、安積の話に自分たちも気になっていたと協力を惜しまない人物だったのです。
そうするうちに、被害者の戸沢と共に浮かんできたのが猪狩修造と和久田紀道という仲間でしたが、いつか行方不明となり、事件との関連を疑わせることになったのです。
本書『秋麗 東京湾臨海署安積班』では戸沢の事件とは別に、東報新聞記者の山口友紀子記者の安積の部下である水野真帆巡査部長への相談事がサイドストーリーとして描いてあります。
山口は定年後再雇用の契約記者である先輩記者の高岡伝一と組んでの取材が増えたのはいいが、高岡のセクハラやパワハラ行為を受けているという相談でした。
この相談事が、いかにも今野敏らしい設定であり、また解決の仕方でした。
解決方法はある程度予測できるものではあったのですが、それなりに納得のいくものであって、不快感の無い読後感だったのです。
また、例によって臨海署の交機隊の速水直樹小隊長が登場し、このセクハラ問題や戸沢が殺された事件にも関わらせ、いつもの速水節をたっぷりと聞かせてくれていて心地よいものでした。
本書『秋麗 東京湾臨海署安積班』では、本『安積班シリーズ』のレギュラーである水野と山口記者との話、それに安積班の須田三郎部長刑事といったユニークな人物たちの活躍を十二分に描き出してあります。
こうしたいつものメンバーに加え、新たな高岡係長という人物もゲスト的立場で彩りを加え定番の面白さを持った作品として仕上がっている、そんな作品だということができます。
特に本書『秋麗 東京湾臨海署安積班』の場合、特殊詐欺を取り上げ、さらに近年問題になっている半グレも絡ませて時代性を反映した作品であり、今野敏の作品らしい読みやすさと面白さを兼ね備えた一冊になっているのです。
本書もまた水準以上の面白さを持った作品だったのであり、安定した面白さを持った物語でした。