今野 敏

機捜235シリーズ

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石礫 機捜235』とは

 

本書『石礫 機捜235』は『機捜235シリーズ』の第二弾で、2022年5月に刊行された、バディものの長編の警察小説です。

気楽に読める今野敏の作品そのままに、胸のすく場面を織り交ぜながらの罰発物テロ犯を追い詰める捜査過程は読みごたえがあります。

 

石礫 機捜235』の簡単なあらすじ

 

警視庁機動捜査隊渋谷分駐所の機捜車コールサイン235に乗る名コンビ、高丸と縞長は、密行中に指名手配の爆弾テロ犯・内田を発見し追跡するが、内田は建築現場に人質を取って立てこもる。二人は発見前の内田が何者かと爆発物の入った可能性のあるリュックを交換したという情報を入手した。新たなテロ計画か?警視庁の精鋭たちが捜査本部に招集され大規模捜査が展開される中、高丸、縞長たちは特捜班となり事件を追う!エリートじゃない、石ころみたいな俺たちだからこそ、できることがある――ベテランと若手の魅力的なコンビの活躍を描き、大人気のシリーズ、堂々の長編で登場!( 光文社 書籍 | 詳細 より)

 

石礫 機捜235』の感想

 

本書『石礫 機捜235』は文字通り警視庁機動捜査隊の物語で、機捜235とは、第二機動捜査隊の第三方面を担当する車両番号が5の車という意味です。

そして、そのコールサイン235の機捜車に乗るのが主人公の高丸卓也であり、その相棒が縞長省一という五十代後半のベテランです。班長は徳田一誠警部補であり、渋谷分駐所のある渋谷署に勤務しています。

この縞長はかつて見当たり捜査班にいたという経歴の持ち主であって、指名手配犯を記憶し、見当たり捜査の達人なのです。

 

見当たり捜査班」とは、警視庁では刑事部の捜査共助課にあって人間の記憶力で被疑者を見つけることを任務とするそうで( ウィキペディア : 参照 )、本書でもその能力を発揮して街中で見かけた爆弾テロの指名手配犯の内田繁之を発見したことが立てこもり事件へと結びついていきます。

また、警視庁機動捜査隊(略称は機捜)とは「特に捜査第一課が担当する事件(強盗、傷害、殺人等)の初動捜査を担当する」とありました( ウィキペディア : 参照 )。

本書『石礫 機捜235』でも、縞長が見つけたテロ犯の内田繁之が立て籠もった際に、初動捜査だけにかかわる機捜隊について駆けつけた特殊班捜査一係(SIT)の班員から邪魔者扱いされる場面が描かれています。

つまり、捜査一課はエリート集団であり、なかでもSITは人質事件などの現在進行形の事件を担当するエリート中のエリートだ描かれているのです。

そして、このエリート集団の一員が縞長をないがしろにするさまが描かれていますが、後にその点について痛快なしっぺ返しが用意してあり、まさに痛快な気持ちを味わえます。

 

本書『石礫 機捜235』には他にも「自動車警ら隊」や「公安機動捜査隊」、それに「特殊班」と呼ばれる警視庁刑事部捜査第一課の特殊犯捜査第一~七係のうちの第一から第三係などの普通の警察小説ではあまり焦点が当たらなさそうな部署が合同で捜査するという形で登場します。

さらに、今野敏作品のファンであれば捜査一課長の田端守雄の登場が喜ばれることと思います。

田端捜査一課長は、今野敏の『警視庁強行犯係・樋口顕シリーズ』、『安積班シリーズ』、『隠蔽捜査シリーズ』、『萩尾警部補シリーズ「確証」』にも登場、『「同期」シリーズ』、『警部補・碓氷広一』シリーズ、『倉島警部補シリーズ』などにも登場している名物課長です。

この田端が出てきてからは、物語の動きが一気に加速します。それまでも徳田や新堀などの高丸の上司たちもそれなりに動いてはくれているが、田端の行動力はその上を行きそうなのです。

それは捜査一課長という地位の持つ権限の大きさを意味するとともに、同時に田端という男の性格をも表しているのではないかと思われます。べらんめえで話すところなどはそうしたことも意味しているのではないでしょうか。

また「自ら隊」の吾妻という存在は、『安積班シリーズ』の速水小隊長のような小気味よさを感じ、この物語の清涼剤的な爽快感を与えてくれているようです。

 

今野敏の物語では、本書で言えば高丸の捜査一課の増田の言動に対する不満に対して、増田の立場にも一応の配慮するなどのそれなりの手当を為したうえで高丸の言葉を肯定しています。

つまりは、非難すべき対象の性格や立場などを考慮するなどの筋を通したうえで、非難の対象への懲罰を加えるという流れになっているのです。

単純に非難するだけではなく、公平な視点を前提に物語の流れを組み立ててあり、その点も人気の一つになっていると思われます。

 

先にも述べたように、本書『石礫 機捜235』では特捜と特殊班と自ら隊との合同での捜査という形式になっています。

その中での年長者としての縞長の扱いが難しそうです。特殊班の二人は縞長のことをレジェンドといって尊敬しており、その後は高丸も縞長の経験を重視し、縞長に家宅捜査などの指揮を任せるようになっています。

役立たずと言われていた縞長が後にはレジェンドと呼ばれる存在となり、特捜でも実績を残す姿は読んでいても気持ちのいいものです。

本『機捜235』シリーズは今後も続くことでしょう。

続編が楽しみです。

[投稿日]2022年07月25日  [最終更新日]2022年7月25日
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