今村 翔吾

イラスト1
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かつて江戸随一の火消として、”火喰鳥”の名を馳せた男・松永源吾。しかし、ある一件の火事をきっかけに、定火消を辞し浪人として不遇をかこつ日々を送っていた。
 そんな折、羽州新庄藩から召し抱えられ、藩の火消組織の再建を託される。少ない予算で立て直しを図ったため、鳶人足は寄せ集め、火消の衣装もぼろぼろ。江戸の民からは「ぼろ鳶」と揶揄されることに……。
 元力士の壊し手、現役軽業師の纏番、風変わりな風読みとクセ者ばかりの面子を引き入れた源吾は、新庄藩火消として再び火事場に戻るのだった。
 再建途上のぼろ鳶組に危難が訪れる、不審な付け火による朱土竜(あけもぐら)と呼ばれる火災現象が多発し、多くの民が焼け出され、火消もその命を落とす。そして、江戸三大大火に数えられる、明和の大火が起こる――。源吾らぼろ鳶組は火付け犯とその黒幕を追い詰められるか?
 時代小説の新しい旗手・今村翔吾が描く、一度輝きを喪った者たちの再起と再生の物語。(祥伝社文庫 人気シリーズ公式WEBサイト より)

 

本書は、上記の祥伝社公式WEBサイトにあるように、江戸の火消しを主人公に、「一度輝きを喪った者たちの再起と再生」を描いた長編の痛快時代小説です。

 

羽州ぼろ鳶組シリーズ(2019年11月05日現在)

  1. 火喰鳥
  2. 夜哭烏
  3. 九紋龍
  1. 鬼煙管
  2. 菩薩花
  3. 夢胡蝶
  1. 狐花火
  2. 玉麒麟
  3. 双風神

 

第160回直木賞候補作となった『童の神』を読んでその筆力に驚いて、著者今村翔吾氏の作品を調べたところ、本シリーズ『羽州ぼろ鳶組シリーズ』が挙げられていました。

早速図書館に予約をし読んだところこれが面白い。

 

本シリーズ『羽州ぼろ鳶組』は今村翔吾という作家のデビュー作だとありましたが、とてものことにデビュー作とは思えない仕上がりです。

先般読んだ時代小説に青山文平という作家の『跳ぶ男』という作品があります。こちらは本シリーズとは異なり、能楽をテーマにした芸道小説であり、その実、この作者がいつも描く“侍とは”という問いに答える真摯な作品でした。

同様に『蜩ノ記』で直木三十五賞を受賞した葉室麟という作家もまたその格調高い文体で真摯に生きる侍という存在を追及している印象があります。

 

 

本『羽州ぼろ鳶組シリーズ』は、そうした作品とは対極にあるといってもいい痛快小説の最たるものです。

主人公の生き様そのものを見つめ、その先にある侍という存在の本質を見つめようとするのではなく、主人公らの行動の先にある痛快さを追い求め、そのことによる爽快感を感じさせてくれる作品だと言えます。

 

面白い痛快小説として、登場人物に魅力的な人物が配置されているかが問われますが、本シリーズはその点も十分です。

主人公はとある事情から一旦は火消しの道から退いた、松永源吾という名の、かつては「火喰鳥」との異名を持っていた程の男です。この男が出羽新庄藩で再び火消しとして再生します。

その妻が深雪といい、今は夫婦仲も若干問題がありそうで、しかし妻としての務めは十分に果たしつつ、経理に才能を持っていて、夫の補佐をしています。

また、出羽新庄藩の火消方頭取並の鳥越新之助という男が源吾と共に働きますが、この男が頼りなさそうでいて、その実隠れた才能を有していたりと飽きさせません。

さらには、元相撲取りの荒神山寅次郎、軽業師の彦弥、風読みの加持星十郎などの癖のある人間たちが源吾を助けることになります。

また、本シリーズは読みやすい文章で紡がれ、テンポがいいことも挙げられます。その読みやすさも、ハードボイルドの世界で見受けられるような気の利いた台詞も散りばめられていて、小気味よさも兼ね備えているのです。

 

ただ、広い江戸の町を源吾は馬で、その他は徒歩で移動しているはずなのに、離れた場所に到着する時間がそれほどに変わらなかったり、その他大勢の鳶の描き方があまりないことなど、若干気になる箇所があります。

しかし、著者のデビュー作であること、私が呼んだのはまだ一巻目であることなどを考えあわせると、細かな不具合など気にする暇もないほどの面白さを持ったシリーズだということができる小説です。

 

本シリーズは、そうしたことを踏まえ、痛快小説の醍醐味を備えた楽しみなシリーズということができるでしょう。

[投稿日]2019年02月25日  [最終更新日]2022年1月21日
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関連リンク

「羽州ぼろ鳶組」シリーズとは | 今村翔吾 羽州ぼろ鳶組 - 祥伝社
かつて江戸随一の火消として、"火喰鳥"の名を馳せた男・松永源吾。しかし、ある一件の火事をきっかけに、定火消を辞し浪人として不遇をかこつ日々を送っていた。 そんな折、羽州新庄藩から召し抱えられ、藩の火消組織の再建を託される。
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