青山 文平

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土地も金も水も米もない、ないない尽くしの藤戸藩に、道具役(能役者)の長男として生まれた屋島剛は、幼くして母を亡くし、嫡子としての居場処も失った。以来、三つ齢上の友・岩船保の手を借りながら独修で能に励んできたが、保が切腹を命じられた。さらに、藩主が急死し、剛が身代わりとして立てられることに。そこには、保の言葉と、藩のある事情があった―。(「BOOK」データベースより)

 

道具役(能役者)の家に生まれた一人の若者の生き様を描いた長編の時代小説です。

 

本書についてはその感想を書くことが非常に難しい作品です。言えるのは、本書は一種の芸道小説であるということだけでしょう。

そして簡単なあらすじとしては、上記の「データベース」に書かれているくらいしか書けないと思います。あらすじを示すこと自体がネタバレになると思われるからです。

その意味でも、これまでこの作者が書いてこられた作品群とは少々その趣を異にしています。つまり、江戸時代の武家の素養としての「能」に焦点をあて、そのほかの侍ならではの事柄は切り捨てて侍の世界を描いてあるのです。

 

そして「能」に特化されていて、「能」自体のことや、武家同士のつながりに「能」が果たしている役割などの「能」が重用される理由については詳しく描かれていますが、能関連の専門的な言葉の説明などはあまりありません。そのために、読者としてはついていくのにかなり苦労すると思われます。私は苦労しました。

そういう意味では、読者は置いていかれがちになる小説でもあります。

同様に、野宮」や「定家」、「関寺小町」などの「能」の曲についても書かれてはいるのですが、もともと能の素養のない身としては、曲についての説明もついていくことが難しくも感じます。

さらには、例えば「登城は戦場」だという言葉であったり、知行地の主となった藩士の、名主などの村役人を招いて行う慰労会のことを指す「椀飯行事」という催しなど、これまでの時代小説では聞いたこともない事柄が数多く記されています。

また、文章そのものも「場処」や「居る処」など、常とは異なる文字使い、言葉遣いが随所で為されていて、能という特別な世界についての書であることを意識せざるを得ない書き方をしてあるのです。

 

これまで 松井今朝子が『道絶えずば、また』という作品などの『風姿花伝三部作』では歌舞伎の世界を舞台にしたミステリーを書き、第137回直木賞を受賞した『吉原手引草』という作品では吉原を舞台とするというように、特別な世界を描写した作品はありました。しかしながら、本書のように「能」に特化した作品は初めてです。

 

 

特別という点では、これまで書いてきた「能」についての作品だという印象が一転する最後の処理がまた見事です。このことを書くこともネタバレになるかもしれず、とにかくこれ以上のことは私の力量では書くことはできないと思われます。

ただ、青山文平という作家のすごさを改めて思い知らされる作品だったことだけははっきりと書くことができます。

[投稿日]2019年02月23日  [最終更新日]2019年2月23日
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