今村 翔吾

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平安時代「童」と呼ばれる者たちがいた。彼らは鬼、土蜘蛛、滝夜叉、山姥…などの恐ろしげな名で呼ばれ、京人から蔑まれていた。一方、安倍晴明が空前絶後の凶事と断じた日食の最中に、越後で生まれた桜暁丸は、父と故郷を奪った京人に復讐を誓っていた。様々な出逢いを経て桜暁丸は、童たちと共に朝廷軍に決死の戦いを挑むが―。皆が手をたずさえて生きられる世を熱望し、散っていった者たちへの、祈りの詩。第10回角川春樹小説賞受賞作。(「BOOK」データベースより)

 

おとぎ話の酒吞童子の物語を下敷きにした長編の痛快エンターテインメント小説で、第160回直木三十五賞候補作でもあります。

 

 

天延三年、日が欠けるという凶事の日に、髪は黄金色で、肌が透き通るように白い容貌の漂着民を母として桜暁丸(おうぎまる)は生まれた。地方豪族の父と蓮茂という師匠のもと桜儀丸はたくましく成長する。しかし、朝廷に反抗したとして父親は源満仲の軍勢に滅ぼされてしまう。

後に京の町で恐れられている盗賊花天狗となった桜暁丸は、同じく盗賊の袴垂と共に京の町で貴族を相手にを荒らしまわったのち、葛城山の土蜘蛛一族の仲間となって酒吞童子と呼ばれるようになる。

その後摂津竜王山の滝夜叉、それに丹波の大江山の鬼らと同盟を組み、朝廷に対抗する一大勢力を築いていくのだった。

 

この物語のベースにあるのは「おとぎ話」です。現代の子供たちは分かりませんが、少なくとも私たち昭和二十年代、三十年代に生まれた子らは、足柄山の金太郎や源頼光の大江山の酒吞童子退治の物語などに慣れ親しんできました。

本書には酒吞童子やその配下の虎熊童子、金熊童子、星熊童子、茨木童子らが暴れまわると同時に、彼らと対立する敵役として、源頼光とその配下の四天王の渡辺綱、卜部季武、碓井貞光、坂田金時らが登場するのです。

この源の頼光の話は、

源頼光と四天王が退治した大江山の酒呑童子とは何者か | WEB歴史街道

に分かりやすく記してあり、本書を読むうえで非常に参考になると思います。

 

ほかに安倍晴明や藤原保昌といった実在の人物も重要な役回りで登場します。

 

本書の見どころは、おとぎ話をもとにしている話しというだけでなく、酒吞童子ら反朝廷勢力の戦い方が、 北方謙三版の『水滸伝』のような構造を持っているところでしょう。

個別に朝廷と対峙していた土蜘蛛や鬼、夷といった朝廷の支配の及ばない「化外の民」と呼ばれて差別を受けていた民衆が、あたかも梁山泊に集まった有志のように反朝廷勢力を構築し、反旗を翻し戦う様子はまさに『水滸伝』です。

 

 

本書には、差別を受けている者と、そうした意識を持たないままに差別する側にいる者との意識の持ちように違いがあることや、坂田の金時のように本来は差別を受ける側にいた者が差別をする側にいることの葛藤なども描かれています。

そのことはまた、登場人物に「己が蔑まれたくないからだれかを貶める。」という台詞を言わせたりと、当時の支配構造についてもエンターテインメント小説なりに示しているのです。

こうした点は、おとぎ話の登場人物らの活躍の描写に比べ、社会的な視点という意味では弱いとも言えそうです。しかし、それはエンターテイメントを採るか否かに連なることでしょうし、エンタメ性を重視したということだと思います。

私のように単純にエンタメ小説に浸りたい読者にはもってこいの物語であり、読書に何らかの意義を求めたい人にとっては若干物足りないかもしれませんがそれなりの考察のきっかけにもなると思うのです。

 

被差別民から出たヒーローを描いた作品としては、個人的には何といってもコミックですが白戸三平の描く名作の『カムイ伝』(下掲はKindle版全十五巻)につきます。被差別民出身のカムイという抜け忍の物語ですが、「カムイ外伝」として松山ケンイチ主演で映画化もされました。

 

 

ところで、近年の直木賞候補作品では、戦国時代以前を舞台にした作品がちょくちょく選ばれています。例えば、室町時代の京都を舞台にした第156回直木賞候補作の 垣根涼介の『室町無頼』という作品や、天平時代の平城京でのパンデミックを描いた第158回直木賞候補作の 澤田瞳子の『火定』という作品です。戦国時代以前と大きく括ればの話であり、たまたまそうした作品が続いただけのことでしょうが、ちょっと気になりました。

 

 

ちなみに、本書タイトルの「童」は、「雑役者」や「僕(しもべ)」を意味する言葉であり、土蜘蛛、鬼、夷(えびす)ら化外の民の総称だそうです。

[投稿日]2019年01月22日  [最終更新日]2019年1月22日
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