今村 翔吾

羽州ぼろ鳶組シリーズ

イラスト1
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「人も同じ、身分は違えども煙草の銘柄ほどのもの」煙管の吸い口を見つめ、平蔵は人の儚き生を思い、正義と悪との境を憂えていた―。京都西町奉行長谷川平蔵は、火を用いた奇っ怪な連続殺人を止めるため、最も頼りにする江戸の火消、松永源吾を京に呼ぶ。源吾は平蔵の息子・銕三郎と真相に迫るが、やがて銕三郎が暴走し―。勇壮な男たちが京の街を駆け抜ける!(「BOOK」データベースより)

 

羽州ぼろ鳶組シリーズの第四弾となる長編の痛快時代小説です。

 

前巻の第三巻「九紋龍」では、放火を手段として皆殺しの押し込みを働く盗賊千羽一家を相手とした源吾らの活躍が描かれました。

本書では、第二巻で急遽江戸へと帰ってきた加持星十郎の、京都での「青坊主」という物の怪の絡んだ事件解決の様子の場面から幕を開けます。

しかし、水を使った殺人事件であった「青坊主」の事件は終わっておらず、新たに物の怪「火車」の仕業だという人間の身体が発火する事件が起きていたのです。

そこで、平蔵からのあらたな要請をうけ、今度は加持星十郎に加え、源吾と武蔵も共に上洛し、火消しの意地を懸けて戦いを挑むことになるのでした。

 

本書では京の都における奉行所の仕組みが説明されています。

京都所司代と京都郡代とで治めていた仕組みの内、郡代の権限だった京と、その周辺の天領の行政と司法の権限を新たに作られた京都町奉行に担当させることになります。

江戸時代の所司代は京都の治安維持の任務にあたった幕府の部署であり、京都市政を預かる京都町奉行は所司代の指揮に従うものの、老中の管轄でした( ウィキペディア : 参照 )。

本書の背景関連でいうと、京都の火消しは四家あるものの京都所司代の管轄だそうで、今の京都所司代の土井利里は田沼意次の政敵であるらしく、平蔵が直接に出動を願っても所司代の命が必要だとした動かない状況だったのです。

 

本書には新しいキャラクターが登場します。その一人が長谷川銕三郎です。

この人物こそ池波正太郎の大人気小説『鬼平犯科帳』の主人公「鬼平」こと長谷川平蔵宣以であり、これまで本シリーズに登場している長谷川平蔵宣雄はその父親です。

この銕三郎は若い頃は「本所の銕」などと呼ばれるほどの放蕩を尽くしていたようで、石川島人足寄場はこの人の功績だというのは有名な話です。

こういう男を見ていると、勝海舟の父親の勝小吉を思い出します。この人については 子母澤寛の描いた『親子鷹』と『おとこ鷹』とが有名ですが、これらの作品は今の痛快小説の原点をなす作品であって、その面白さも含めて時代小説では必読の作品だと思います。

 

 

またもう一人、常火消淀藩火消頭取野条弾馬という男が登場します。この男が経歴も人柄も源吾とそっくりであり、源吾自らが自分と同じだというほどの男でした。

さらに、京の絡繰り師の五代目平井利兵衛と六代目平井利兵衛の水穂という女性が登場し、新たな火消しの道具を見せてくれます。

 

そうした登場人物が生き生きと動き回り、京の都を火事から救おうと縦横無尽に活躍し、火消しの心意気を見せてくれます。

ただ、このシリーズに対して持っていた若干の不安が垣間見える作品でもありました。

というのも、そもそも痛快小説は魅力的なキャラクターの存在があって、ストーリーの背景には勧善懲悪の物語があり、日本人の心の奥底をくすぐる浪花節的な物語が潜んでいると思っています。

しかし、そのことは、一歩間違えば安直な浪花節物語、つまりは通俗的なお涙頂戴の物語に陥る危険性があると思うのです。

そういう意味で本書はぎりぎりのところにあり、読む人によっては本書は安直だと言う人がいるかもしれないと思うほどです。

こうしたことは前にも書いているのですが、本書では特にそのあたりの線引きが微妙であり、少々怪しいところを感じたものでした。

そのように感じたのは、銕三郎と平蔵との終盤の会話であり、また野条弾馬を雇い入れた淀藩当代の稲葉正弘の行いです。

本シリーズが荒唐無稽な設定のもと、火消したちの心意気を読ませるものであることはよく理解しているつもりですが、それにしても少々無理のある描き方ではないかと思ってしまったのです。

でも、まあ、あまり声高に叫ぶ問題でもないでしょうし、面白い作品であることに間違いはないのですから、そういう印象を持ったことだけを指摘しておくにとどめます。

 

また、本シリーズでは歴史上の実在の人物を多数登場させていますが、本書においては渋川春海もまた名前だけではありますが登場しています。また本書での敵役として土御門家が京都での新たな敵役として登場しています。

この土御門家というのは、室町時代の陰陽師として高名な安倍晴明の流れを汲む家系であり、暦の編纂権を握っており、幕府と対立をしているのです。

この点において渋川春海が編纂権を奪い返したこともありましたが、今では再び土御門家が編纂権を握っているのです。

冲方丁の『天地明察』がこのあたりのことを描いており、非常に面白い小説でした。

 

 

ともあれ、本シリーズは近年の時代小説の中では掘り出しものの一冊であり、続編を読んでいこうと思います。

[投稿日]2019年08月09日  [最終更新日]2019年8月9日
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