今村 翔吾

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くらまし屋稼業シリーズ(2019年11月13日現在)

  1. くらまし屋稼業
  2. 春はまだか
  3. 夏の戻り船
  1. 秋暮の五人
  2. 冬晴れの花嫁

 
 

登場人物
堤平九郎 飴細工屋 浅草などに露店を出している
茂吉   日本橋堀江町にある居酒屋「波積屋」の主人
七瀬   「波積屋」で働く二十歳の女性
赤也   「波積屋」の常連客 美男子

初谷男吏 牢問い役人 「虚」の一味
榊惣一郎 剣の遣い手 「虚」の一味

本シリーズは、何らかの理由で江戸の町から逃げ出したい人たちを、下記七箇条を守ることを条件に、高額な謝金と引き換えに、無事に逃がしてやることを生業としている一味の物語です。

くらまし屋七箇条
一、依頼は必ず面通しの上、嘘は一切申さぬこと。
二、こちらが示す金を全て先に納めしこと。
三、勾引かしの類でなく、当人が消ゆることを願っていること。
四、決して他言せぬこと。
五、依頼の後、そちらから会おうとせぬこと。
六、我に害をなさぬこと。
七、捨てた一生を取り戻そうとせぬこと。

 七箇条の約定を守るならば、今の暮らしからくらまし候。
 約定破られし時は、人の溢れるこの浮世から、必ずやくらまし候。

 

登場人物を見ると、浅草などに露店を出している飴細工屋をしている堤平九郎という男を主人公とし、その仲間として、日本橋堀江町にある居酒屋「波積屋」で働く一味の頭脳であの七瀬という二十歳の娘、それに演技力と変装術が達者な赤也という色男がいて、それに「波積屋」の主人茂吉がいます。

それに、『』という正体不明の組織があり、その一味に、第一巻では牢問い役人の初谷男吏榊惣一郎という剣の遣い手が登場しています。

 

作者の今村翔吾には、『羽州ぼろ鳶組シリーズ』という人気シリーズがありますが、作者自身は『羽州ぼろ鳶組シリーズ』が「表の人間」を描いているとすれば、本シリーズは「その反対の裏側が舞台」だと言っています( 今村翔吾・インタビュー : 参照 )。

 

 

この逃亡の手助けという仕事については、かつて「夜逃げ屋本舗」というテレビドラマがありました。多重債務者の夜逃げを手助けをするという中村雅俊主演の人気シリーズであり、同じ中村雅俊主演で映画化もされたほどです。

 

 

また小説では、田牧大和の『とんずら屋シリーズ』があります。

この田牧大和の小説は、「とんずら屋」という夜逃げ屋を営む「松波屋」を舞台に、十八歳になる弥生という少々事情を抱える娘を主人公に繰り広げられる痛快人情時代小説です。今のところ二巻でとどまっており、続刊を期待したいしたいほどに面白く読んだ物語です。

 

 

本書『くらまし屋稼業シリーズ』にはさらに仕掛けが施してあります。

それは前述の「虚」という正体不明の組織の存在であり、本書ではその一旦が垣間見えるだけです。

そしてもう一点。主人公の平九郎にはいまだ明かされていない目的があるようで、第一巻ではまだ何らかの目的を有していることが示唆されているだけです。

そもそも、平九郎が今「くらまし屋」を始めた理由も、本書では過去に何らかの出来事があったことを示してあるだけです。詳しい経緯は今後の物語の要となってくるかもしれません。

 

物語の全体的な印象は、まだ続いているシリーズですので断言はできませんが、例えば第一巻では喜八の娘に関する隠された事情が哀切さの漂う物語として描いてあり、単に痛快活劇小説という以上の哀しみまで漂う物語として仕上がっています。

その点では辻堂魁の『日暮し同心始末帖シリーズ』に通じるところがあるようです。こ『日暮し同心始末帖シリーズ』は登場人物の哀しみに対する救いがないと感じる場面もあるほどに切なさ漂うシリーズです。

ただ、本書のほうがより活動的ではあり、若干の明るさはあるように思えます。

 

 

いずれにしろ、また楽しみなシリーズが増えたと言えそうです。

[投稿日]2019年11月12日  [最終更新日]2019年11月13日
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