本書『妖の掟』は、『妖の華』に続く『妖シリーズ(?)』の第二巻目となる長編のアクション小説です。
誉田哲也の作品だけにエンターテイメント小説としてそれなりの読みごたえはあったように思いますが、近時の誉田作品の中では今一歩でしょうか。
盗聴器の仕掛けがバレてヤクザに袋叩きにあう圭一を気まぐれで助けたのは、坊主頭の欣治と人形と見紛う美貌の持ち主、紅鈴だった。圭一の部屋に転がり込んだ二人にはある秘密が― –このテキストは、tankobon_hardcover版に関連付けられています。(「BOOK」データベースより)
本書『妖の掟』は、前作『妖の華』で過去にあったとされる「三年前に起きた“大和会系組長連続殺害”」という記述を物語化した作品で、誉田哲也お得意のエロスとバイオレンス満載のエンターテイメント小説です。
本書の主人公である紅鈴と紅鈴の相棒の欣治がその能力を発揮し三人の組長を殺す、そのための舞台設定をし、すでに刊行されている『妖の華』へとつなぎます。
つまりは私が読む順番を違えたためにこの前提がわからず、本書『妖の掟』では今一つ誉田哲也らしくなく物語の工夫があまり感じられずに、「近時の誉田作品の中では今一歩」と感じたものと思われます。
前巻を読んでみると前巻での組長殺しの状況をかなり詳しく書き込んであるために、本書での自由度が制限されていたためだとわかります。
本書『妖の掟』では、主人公紅鈴とその相方欣治とに仲間ができます。辰巳圭一という男で、紅鈴らはこの男の絡みで前述の三人の殺しに関わることになります。
この男は、紅鈴らが吸血鬼だと明かされても動じません。それどころか、吸血鬼が友達だと自慢できる、などというのです。
この愛すべきキャラクターの存在が物語に何となくの哀しみを漂わせています。
エロスとバイオレンスの伝奇小説となると『妖シリーズ』の項でも書きましたが、夢枕獏と菊地秀行とが必須です。
夢枕獏には『魔獣狩りシリーズ』という作品が、菊地秀行には『バイオニック・ソルジャーシリーズ』などがあります。(下掲リンクは文庫版ですが、それぞれにKindle版もあります)
彼らの作品は人間対異形のものという図式がなり立ちそうで、ラヴクラフトの「太古の神々」にも通じる存在が敵役でした。
本書『妖の掟』では主人公本人がその異形のものにあたるとも言えそうです。つまりは吸血鬼です。
ただ、その“異形のもの”自体が主人公である点が異なり、そういう意味では映画化もされているアメリカンコミックの『ヘルボーイ』と共通するところがあります。
紅鈴らは、こうした西洋の悪魔などとは異なる和風吸血鬼である「闇神(やがみ)」と呼ばれる存在です。
身体能力は通常の人間が及ぶものではなく、本書でもその能力を生かして三人の組長の殺しを実行してしまいます。
ちなみに、前巻でもそうらしいのですが、本巻でも『姫川玲子シリーズ』の主要登場人物の一人である新宿署の井岡巡査部長がほんの少しだけ顔を見せます。
別のシリーズで独特の存在感を出している人物が別のシリーズに登場することは、何となくそのシリーズにも親しみを感じてしまうのですから不思議なものです。
ともあれ、本書『妖の掟』が誉田哲也の作品としてベストを選ぶ際に入るかと言われれば疑問ですが、本書は本書としてかなり面白い作品であることは間違いありません。
ただ、未読の前作『妖の華』を読み、また作者が断言している未だ書かれざる本書の続巻、少年だった欣治と紅鈴との出会いの話の『妖の絆』、いろいろな時代の紅鈴&欣治コンビの話の『妖の旅』、一作目の後日談となる近未来SFの『妖の群』を読んだ後では、また評価が変わるかもしれません。
ちなみに、前巻でもそうらしいのですが、本巻でも『姫川玲子シリーズ』の主要登場人物の一人である新宿署の井岡巡査部長がほんの少しだけ顔を見せます。
別のシリーズで独特の存在感を出している人物が別のシリーズに登場することは、何となくそのシリーズにも親しみを感じてしまうのですから不思議なものです。
ともあれ、本書『妖の掟』が誉田哲也の作品としてベストを選ぶ際に入るかと言われれば疑問ですが、本書は本書としてかなり面白い作品であることは間違いありません。
ただ、前作『妖の華』を読み、また作者が断言している未だ書かれざる本書の続巻、少年だった欣治と紅鈴との出会いの話の『妖の絆』、いろいろな時代の紅鈴&欣治コンビの話の『妖の旅』、一作目の後日談となる近未来SFの『妖の群』を読んだ後では、また評価が変わるかもしれません。