本書『妖の華』は、文庫本で459頁の、『妖シリーズ』の第一弾の長編のアクションホラー小説です。
シリーズ第二作の『妖の掟』で詳しく描かれることになる「三年前に起きた“大和会系組長連続殺害”」の後日譚ということになる物語です。
『妖の華』の簡単なあらすじ
ヒモのヨシキは、ヤクザの恋人に手を出して半殺しにあうところを、妖艶な女性に助られる。同じころ、池袋では獣牙の跡が残る、完全に失血した惨殺体が発見された。その手口は、3年前の暴力団組長連続殺人と酷似していた。事件に関わったとされる女の正体とは?「姫川」シリーズの原点ともなる伝奇小説が復刊。第2回ムー伝奇ノベルス大賞優秀賞受賞作。(「BOOK」データベースより)
『妖の華』の感想
驚いたのは、本書『妖の華』が誉田哲也のデビュー作品だということです。
とてもこの作品が新人の手によるものだとは信じられません。それほどに物語としての面白さを既に持っているのです。
ただ、確かに現在の誉田哲也の作品の特徴ともいえる一人称での描写も明確ではないし、警察組織の描き方にしても丁寧さに欠けるきらいはあります。
しかし、文章のテンポは悪くないし、ストーリー展開もさまになっていて見事なものとしか思えません。
また、後に『姫川玲子シリーズ』の重要な登場人物の一人ともなる井岡博満刑事が重要な役割をもって登場してきたのには驚きました。
よく考えてみれば、本書が誉田哲也のデビュー作だというのですから、井岡の登場もこちらの方が先である筈なのですが、どうも『姫川玲子シリーズ』の方を先に読んでいたこともあり、妙な感じでした。
更にもう一人、監察医の國奥定之助も本書で既に登場しています。
誉田哲也という作家は、自身が書く物語を共通の世界で展開させることが少なからずあるため、そうした方策をとっているかとも思いましたが、世界観までは共通というわけではなさそうです。
つまり、本書を習作として警察小説を書くことの面白さを知り、『姫川玲子シリーズ』を書くことになると書いてありました。
従って、本書『妖の華』でキャラクターを作り面白いと感じた井岡を『姫川玲子シリーズ』登場させたのだと思われます。それは國奥定之助にしても同じでしょう。
とにかく、本書『妖の華』はデビュー作とはとても思えない、エンターテイメント小説として禱文に面白さを備えた作品だと思います。