江戸の吉原で黒い狐面の集団による花魁殺しが頻発。北町奉行所の貧乏同士、今村圭吾は花魁たちを抱える女衒に目をつけ、金で殺しを解決してやるともちかけた。一方、大工の幸助は思いを寄せていた裏長屋の華、おようの異変に気づき過去を調べ始める。「姫川」シリーズの著者初の時代小説。傑作捕物帳登場。(「BOOK」データベースより)
誉田哲也の珍しい江戸の吉原を舞台とした長編の時代小説です。
詳しい時代は良く分からない、江戸時代の吉原で狐のお面の集団による花魁の連続殺人が起きた。殺された花魁たちはみな花魁の貸し出しを行っている晴海屋の花魁だという。
そこで、吉原の番所に詰める同心今村圭吾は晴海屋の女衒の元締めである丑三(うしみつ)のもとへ行き、五百両で犯人を捕まえようと持ちかけるのだった。
誉田哲也のごく初期の作品らしく、娯楽読物としてそれなりの面白さがあります。何の理屈も考えずに、気楽に物語世界に浸る、そういう読み物であり、それ以上のものではありません。ましてや『姫川玲子シリーズ』などと比べるものではありません。
テンポよく読み進めることのできる徹底した娯楽読物ですが、それだけであり、読んでいて楽しい時間を過ごせる小説とまでは言えません。
誉田哲也の初期作品なので、現在の誉田哲也の力量による作品と同じレベルのものを要求するこちらが理不尽ではあります。
著者の言葉として、吉原を舞台にしたノワール小説を書こうと思ったのだそうです。しかし、単に主人公の貧乏同心がワルから裏金を貰い事件解決に向かう、というだけのことであり、とても同心今村圭吾はノワールものの主人公とは言えないでしょう。
ダークな雰囲気の中でエロスをちりばめた伝奇小説的物語ですが、そのダークさも振りきれていない作品だったのは残念です。