東山 彰良

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本書『逃亡作法』は、近未来の日本が舞台のバイオレンスに満ちた物語です。

死刑の代わりに「アイホッパー」と呼ばれる仕組みが導入されている世界で、刑務所を脱走した、ツバメやモモらのワルどもの行動を描く、それなりの面白さを持った作品でした。

 

死刑制度が廃止された近未来の日本。“キャンプ”と呼ばれる刑務所では囚人の自由が拡大されるなど、刑務所の形態が大きく変わり加害者の人権が大幅に保護されていた。だが被害者の家族は納得がいかず、一部では復讐を誓う者同士が手を組み“キャンプ”の襲撃を計画。一方、標的となった囚人たちは“キャンプ”からの脱獄を企てていた。『このミステリーがすごい!』大賞銀賞・読者賞受賞作。(上巻 : 「BOOK」データベースより)

連続少女暴行殺害犯・川原昇に娘を殺された飯島好孝ら遺族たちは、“キャンプ”襲撃計画を実行に移し、管理室を占拠した。だが、一瞬の隙を突き逆襲に出た囚人たちは、「アイホッパー」と呼ばれる、“キャンプ”から脱獄しようとすると眼球が飛び出すようプログラムされたチップの解除パスワードをまんまと入手。刑務所からの脱獄を開始した。第1回『このミス』大賞銀賞・読者賞受賞作。(下巻 : 「BOOK」データベースより)

 

本書は、少々やり過ぎではないかというほどに暴力に溢れていて、猥雑という言葉がそのまま当てはまる小説です。

この「猥雑」という言葉からは、中島らもの『ガダラの豚』や、樋口毅宏の『さらば雑司ヶ谷』などがすぐに浮かびます。

暴力を前面に押し出し、それでも人間の内心に深く飛び込んでいくような『ガダラの豚』は大作と言ってもいい長編小説ですが、作者の膨大な知識を彷彿とさせる、敬遠しながらも妙に心惹かれるような、微妙な小説でした。

 

 

また『さらば雑司ヶ谷』は、「猥雑」という言葉が全面に出ている、個人的には好みからは外れていた小説なのですが、パスティーシュに満ちたこの作品は、読み手のネタ元に対する知識次第では面白さ満載と言えるのかもしれません。

 

 

本書に関しては、「このミステリーがすごい!」大賞銀賞を受賞しているそうですが、こうした作品もミステリーと言えるのか、ミステリー性をあまり感じなかった私としては微妙な気持ちです。

まあ、「このミステリーがすごい!」大賞自体がミステリー性は重視していないという意見も多々見られるので、それはそれで良いのでしょう。

[投稿日]2017年03月04日  [最終更新日]2020年8月9日
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