誉田 哲也

イラスト1
Pocket


あの夏、二人のルカ』とは

 

本書『あの夏、二人のルカ』は、2018年4月に刊行され、2021年4月に文庫化された作品で、文庫本は432頁の長編の青春小説です。

誉田哲也らしい、女子高生ガールズバンドを描いた作品で、過去と現在と異なる時間軸を通して青春時代のきらめきを描いた作品です。

 

あの夏、二人のルカ』の簡単なあらすじ

 

あの夏からずっと、大人って何か、考え続けてるー離婚し、東京・谷中に戻ってきた沢口遥は、近所に『ルーカス・ギタークラフト』という店を見つける。店主の乾は、ギターだけでなく日用品の修理も行う変わり者。彼と交流するうち、遥の脳裏に、蓋をしていたある記憶が甦る。大人になりたい少女、大人になりたくない少女、大人になってしまった少女。それぞれの悩みと思いが交錯する。青春の葛藤と刹那の眩しさに溢れた群像劇。(「BOOK」データベースより)

蓮見翔子が学校に持ってきたギターをきっかけに、佐藤久美子は蓮見翔子と谷川実悠とに声をかけて、三人でバンドを組むことになります。

そこに、バンドの話を聞きつけた真嶋瑠香が手伝いとして参加し、更には歌のうまい森久遥も引き込んで、ガールズバンド「ルーカス」が誕生したのです。

一方、現在。生まれ育った谷中に戻ってきた一人の女性の家の近くに新しくできていたのがギターや日用品の修理を行う「ルーカス・ギタークラフト」というギターのリペアショップでした。

その女性は、この店のオーナー乾滉一と次第に仲良くなっていくのです。

 

あの夏、二人のルカ』の感想

 

誉田哲也の小説らしく、物語は二本の時系列を、それも多視点で描きだしてあります。

一本は佐藤久美子の視点で描かれるガールズバンドの成長の物語であり、もう一本は離婚して谷中に戻ってきた女性と、「ルーカス・ギタークラフト」オーナー乾滉一の二人それぞれの視点で描かれる物語です。

 

恩田哲也の小説には他にも『疾風ガール』『ガール・ミーツ・ガール』という柏木夏美という女子を主人公とした青春音楽小説があります。

ギタリストとして才能豊かな夏美を主人公に、ミステリータッチで進む青春小説の『疾風ガール』と、その続編で音楽中心の青春小説の『ガール・ミーツ・ガール』です。

 

 

また『レイジ』という作品は、中学で出逢った性格も異なる二人の男子の成長していく中で進むべき道を違えていく様子を描いた作品でした。交錯しそうで微妙にすれ違う二人の人生がたどり着く先は・・・。
 

 

前三作も、作者の音楽経験をふんだんに盛り込んで、時代背景を丁寧に書込み、バンドをやっていた人なら私以上に面白く読むのではないか、と思った記憶があります。

勿論本作も、レンタルスタジオの様子から、ギターの奏法、ベースの刻み方など、専門的にやっていた人ならではの知識を盛り込んであります。

本作『あの夏、二人のルカ』と前三作との違いを挙げるとすれば、前三作の内容をはっきりとは覚えていないので正確ではないのですが、本作品のほうがより小説として丁寧に仕上がっている印象です。

 

本作はそれまでと異なり、登場人物のキャラクターがより人間的、というか単純ではないと感じます。前三作もかなり面白く読んだ記憶はあるのですが、本作品の時間軸を違えた構成がよかったのでしょうか。

何より、ガールズバンドの物語であるのに、バンドに参加しない人物を、物語の進行上かなり重要な役割を負わせた人物として設定してあることのうまさです。

いかにも女子高生のノリでのバンドへの参加のようでいて、実はその背景には彼女なりの過去があった、ということが次第に明かされていくのですが、ただ、読ませ方がうまいとあらためて思いながらの読書となっていました。

谷中に住む現在の時間にいる女性が、別時間軸で語られる女子高生のうちの誰なのか、という謎とも言えない関心事を漂わせながら、彼女らにいかなることが起きたのか、という興味は最後まで読者を引っ張ります。

そうしたストーリー作りのうまさはこの作者の定評のあるところで、本作でもその醍醐味はいかんなく発揮されています

また、『武士道シリーズ』などを引き合いに出すまでも無く、この作者の女性の描き方のうまさもまた同様に皆が認めるところであり、そういう観点からも読ませる作品です。

 

 

タイトル『あの夏、二人のルカ』に込められた作者の仕掛けといい、時間軸を違えて描写しながら、少女たちの成長を見せるその手腕といい、私の好みに合致した作品だとしか言いようがありません。

とても面白く、また読みがいのある作品でした。

[投稿日]2018年09月26日  [最終更新日]2022年6月14日
Pocket

おすすめの小説

おすすめの青春小説

風が強く吹いている ( 三浦 しをん )
この本はスポーツ小説としても勿論、青春小説としても一級だと感じます。主人公ハイジが一人の天才ランナーカケルを見つけたことで、ハイジが住む寮に暮らす面々と共に自身の夢であった箱根駅伝に挑戦しようする物語です。
神去なあなあ日常 ( 三浦 しをん )
林業を目指す若者をコミカルに描いた作品です。普段は目にすることも耳にすることもない林業の世界を、かわいい女の子のポスターに導かれて飛び込んできた一人の若者の成長する姿が描かれています。続編の出され、映画化もされました。
一瞬の風になれ ( 佐藤 多佳子 )
陸上のスプリンターの道をまい進する少年の物語。短距離走の選手である主人公の走る場面の風の様子など、その描写は素晴らしいの一言です。
サマータイム ( 佐藤 多佳子 )
佐藤多佳子デビュー作で、表題の「サマータイム」他3篇からなる(連作の)短編集で、透明感のある青春小説です。
GO ( 金城 一紀 )
著者の自伝的な作品で、在日韓国人である主人公の立場が明確に示されている作品で、この作品で直木賞を受賞し、金城一紀の代表作でもあります。

関連リンク

誉田哲也『あの夏、二人のルカ』が発売!音楽活動に明け暮れた小説家が描く、ガールズバンドの青春物語
『あの夏、二人のルカ』で描かれるのは、ガールズバンドとして活動する女子高生たちと、かつて何かを失った大人たちの物語。結婚生活に終止符を打ち東京に戻ってきた女性と、バンド活動に青春のすべてを注ぎ、葛藤し、成長していく女子高生たちが描かれます。
【編集者のおすすめ】『あの夏、二人のルカ』誉田哲也著 共感できる青春時代の葛藤
映像化もされた警察小説の「姫川玲子」シリーズ、青春小説の「武士道」シリーズなど、幅広い作風で読者を獲得する誉田哲也氏。その作品には必ず1作ごとにテーマが込められている。今作で書きたかったのは「大人ってなんなのか」。
『あの夏、二人のルカ』刊行記念 誉田哲也 LIVE SHOW 2018 潜入レポート!
ライブハウス「ドゥ・アップ」のホールは、かなり深い地下一階にある。白い漆喰みたいな壁の、わりと洒落た雰囲気の階段を下りていって、受付がある踊り場も通過してさらに下りて、今は開けっ放しになっている、あの分厚い黒い扉の中が、そうだ。
【刊行記念インタビュー】誉田哲也『あの夏、二人のルカ』 ギター・リペアショップから始まる出会いと、ガールズバンドの輝けるひとの夏の想い――。
――最新刊『あの夏、二人のルカ』はバンドを組む女子高生たちと、三十代の男女の物語がクロスオーバーする長篇小説です。着想はどこから?誉田  実は、最初はこういう話を書くつもりはまったくなくて、金型工場の話を書くつもりだったんです。
14年前、わたしは親友と歌を失った――誉田哲也最新作『あの夏、二人のルカ』
映像化された『ストロベリーナイト』をはじめとする「姫川玲子」シリーズや二人の剣道少女の成長を描く「武士道」シリーズなどで人気を博している誉田氏の最新作は、バンド活動に青春の全てを注いだ女子高生たち、そしてかつて何かを失った大人たちの物語です。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です