『ボーダレス』とは
本書『ボーダレス』は2018年8月に刊行されて2021年2月に文庫化された作品で、文庫本で390頁の長編のミステリー小説です。
作者誉田哲也の遊び心が満載の、ジャンルに縛られない筈の物語ですが、誉田哲也の作品としては今一つの印象でした。
『ボーダレス』の簡単なあらすじ
“教室の片隅で密かに小説を書く女子高生と、彼女に興味を惹かれる同級生”“事故で失明した妹と、彼女を気遣い支える姉”“音大入試に挫折して実家の喫茶店を手伝う姉と、彼女に反発する妹”“年上の女性に熱い思慕を抱く令嬢”交わらないはずの彼女たちの人生が一つに繋がるとき、待ち受ける運命とは!?四つの物語が交錯し、スリリングに展開する青春ミステリー。(「BOOK」データベースより)
平凡であることを自覚していた女子高生の奈緒は、いつも何かを書いている希莉がサスペンス小説を書いていることを知った。
芭留と圭の姉妹は父に会いに山奥の家に来ていたがある日の遅く、階下で父が何者かに襲われているのを目撃した。芭留は目の見えない圭の手を引いて山中を犯人の手から逃げるのだった。
琴音は音大の受験に失敗して両親のやっている喫茶店を手伝っていた。妹の叶音とは仲違いをし、口もきかないでいたが、ある日、常連客から山中で死体が発見されたという話を聞いた。
体が弱く、別荘で本を読むだけの日々だった社長令嬢の結樹は、毎日別荘の前を通るきれいな女性を眺めていた。ところがある日、彼女から話しかけられ、二人は恋に落ちてしまうのだった。、
『ボーダレス』の感想
本書『ボーダレス』は、誉田哲也の「私は真面目に嘘をつく」という『ボーダレス』についてのエッセイを読んでもらうのが一番いいと思います。
そこには、本書は誉田哲也という作家の描いてきた青春、音楽、格闘技などの様々なジャンルの物語が「全部交ざったらどうなるのか」と書いてあります。
また、過去に書いた事件のその後はどうなっているか、たとえば「ストロベリーナイト事件」とも書いてあります。
そんな誉田哲也の遊び心にあふれた作品が本書です。
しかし、本書『ボーダレス』は誉田哲也の小説の中では、それほど出来がいいとは思えませんでした。
たしかに、著者である誉田哲也本人が言うような物語として仕上がっています。
青春小説や、音楽小説、そして格闘小説にエロチックミステリーと全く関係のないような話が別個に展開され、それが次第にリンクしていき、一つの物語としてまとまります。
それはそれとして面白く読めた物語ではありました。
しかしながら、誉田哲也らしいインパクトを持った物語だったとは言えません。
それは、例えばエロチックミステリーに出てくる正体不明の女や、八辻姉妹の父親孝蔵などの人物像が今一つ見えてこないことなどがあると思います。
誉田哲也の小説の魅力は、良く練り上げられた人物像が、その設定された人物らしい台詞を話すことを前提に、これまた良く練られたストーリーに沿って動き回るところにあると思います。
その人物像が本書『ボーダレス』では今ひとつ見えにくいのです。
更には、本書の結末が妙に落ち着きません。中途半端に感じてしまいます。誉田哲也という作家ならば、もう少しインパクトのある結末を用意できたのではないかと、贅沢な思いを持ってしまうのです。
読み手の勝手な要求であることは十分承知の上でなおそう思ってしまいます。
本書『ボーダレス』は、2022年1月に『アクトレス』という続巻が出版されました。
誉田哲也の作品らしく、視点が頻繁に変わる作風の、それなりに面白い作品でしたが、本書同様に今一つ腑に落ちない、半端な印象の作品でもありました。
ちなみに、本書『ボーダレス』は「ひかりTV」でドラマ化されていたようです。すでに放映は済んでいるようですが、一応予告編を載せておきます。
詳しくは下記サイトを参照してください。
また、『ボーダレス公式メモリアルブック』も発売されていました。