本書『ボーダレス』は、文庫本で390頁の長編のミステリー小説です。
作者誉田哲也の遊び心が満載の、ジャンルに縛られない筈の物語ですが、誉田哲也の作品としては今一つの印象でした。
なんてことのない夏の一日。でもこの日、人生の意味が、確かに変わる。教室の片隅で、密かに小説を書き続けているクラスメイト。事故で失明した妹と、彼女を気遣う姉。音大入試に失敗して目的を見失い、実家の喫茶店を手伝う姉と、彼女との会話を拒む妹。年上の彼女。暴力の気配をまとい、執拗に何者かを追う男。繋がるはずのない縁が繋がったとき、最悪の事態は避けられないところまで来ていた―。(「BOOK」データベースより)
『ボーダレス』の簡単なあらすじ
本書『ボーダレス』は、誉田哲也の「私は真面目に嘘をつく」という『ボーダレス』についてのエッセイを読んでもらうのが一番いいと思います。
そこには、本書は誉田哲也という作家の描いてきた青春、音楽、格闘技などの様々なジャンルの物語が「全部交ざったらどうなるのか」と書いてあります。
また、過去に書いた事件のその後はどうなっているか、たとえば「ストロベリーナイト事件」とも書いてあります。
そんな誉田哲也の遊び心にあふれた作品が本書です。
しかし、本書『ボーダレス』は誉田哲也の小説の中では、それほど出来がいいとは思えませんでした。
たしかに、著者である誉田哲也本人が言うような物語として仕上がっています。
青春小説や、音楽小説、そして格闘小説にエロチックミステリーと全く関係のないような話が別個に展開され、それが次第にリンクしていき、一つの物語としてまとまります。
それはそれとして面白く読めた物語ではありました。
しかしながら、誉田哲也らしいインパクトを持った物語だったとは言えません。
それは、例えばエロチックミステリーに出てくる正体不明の女や、八辻姉妹の父親孝蔵などの人物像が今一つ見えてこないことなどがあると思います。
誉田哲也の小説の魅力は、良く練り上げられた人物像が、その設定された人物らしい台詞を話すことを前提に、これまた良く練られたストーリーに沿って動き回るところにあると思います。
その人物像が本書『ボーダレス』では今ひとつ見えにくいのです。
更には、本書の結末が妙に落ち着きません。中途半端に感じてしまいます。誉田哲也という作家ならば、もう少しインパクトのある結末を用意できたのではないかと、贅沢な思いを持ってしまうのです。
読み手の勝手な要求であることは十分承知の上でなおそう思ってしまいます。