誉田 哲也

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新刊書

双葉社

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本書『背中の蜘蛛』は、現代の情報化社会の問題点をテーマにした長編の警察小説で、第162回直木賞の候補作となった作品です。

いつもの読者へのサービス満載の誉田哲也作品と比べると社会性の帯びかたが強いとは言えると思います。佐々木譲が書く作品ようなリアルな警察小説の雰囲気さえ感じたほどです。

しかし、やはり本書は誉田哲也の描くエンターテイメント作品としての警察小説であり、惹き込まれて読み終えました。

 

東京・池袋で男の刺殺体が発見された。捜査にあたる警視庁池袋署刑事課長の本宮はある日、捜査一課長から「あること」に端を発した捜査を頼まれる。それから約半年後―。東京・新木場で爆殺傷事件が発生。再び「あること」により容疑者が浮かぶが、捜査に携わる警視庁組織犯罪対策部の植木は、その唐突な容疑者の浮上に違和感を抱く。そしてもう一人、植木と同じように腑に落ちない思いを抱える警察官がいた。捜査一課の管理官になった本宮だった…。「あること」とは何なのか?池袋と新木場。二つの事件の真相を解き明かすとともに、今、この時代の警察捜査を濃密に描いた驚愕の警察小説。(「BOOK」データベースより)

 

登場人物(警察関係)
本宮夏生  警視庁池袋署刑事課長 のち警視庁捜査一課管理官
上山章宏  公安部サイバー攻撃対策センター
小菅守靖  警視庁刑事部捜査一課長 警視正

植木範和  警視庁組織犯罪対策部組対五課の警部補
佐古充之  高井戸署刑事組織犯罪対策課の巡査部長

上山章宏  警視庁総務部情報管理課運用第三係係長
國見健次  警視庁総務部情報管理課運用第三係統括主任の警部補
阿川喜久雄 巡査部長

 

本書は三部構成になっています。第一部、第二部でそれぞれに事件が起き、行き詰まりの様相を見せてきたところで突如新たな情報がもたらされ、犯人の逮捕に結びつきます。

そして第三部で、第一部、第二部で突然もたらされた犯人逮捕に結びつく情報の出所に疑問を抱いた、今では第二部で起きた「新木場の爆弾事件」の捜査本部の管理官となっている本宮夏生が中心となって話は進みます。

 

ただ、本書『背中の蜘蛛』では三部構成になっているためか、少々登場人物の把握に時間を取られました。

そもそも、誉田哲也の小説では物語の視点の変更が頻繁に起こります。特に追う側、多くは警察官と、悲惨な過去を持つ犯人側とで視点が変わることが多いようです。

そのことが誉田哲也の文体の特徴を決定づけるとともに、登場人物の視点で語られることによる主観描写がうまいため、読者が感情移入しやすいという利点があるように思えます。

 

ところが、本書『背中の蜘蛛』の場合、視点の主を見失うことが少なからずありました。

それは、一つには第三部に入り登場人物が増えたことにあると思います。

警察関係では公安警察と架空の部署である運用第三係とが新規に登場し、当然、登場人物も増えます。

加えて、前原幹子涼太姉弟と涼太が拾ってきた正体不明の男も増え、それぞれに重要な役割を担っています。

そして第一部は本宮の、第二部は植木の視点で語られ、第三部は本宮と運用第三係係長の上山章宏、そして正体不明の男という三人の視座が入れ替わるために若干の混乱を招いたのだと思われます。

とはいえ、この点はちょっと注意すればすぐに慣れる事柄ではあります。

 

本書の一番の特徴と言えば、先に述べた「社会性」ということでしょう。つまりは、情報化社会における警察の情報収集のあり方です。

ひと昔前に問題になった事件として、公安警察による日本共産党幹部の盗聴事件がありました。警察の組織的な関与が疑われた盗聴事件として大問題になりました(ウィキペディア : 参照)。

世界的に見るとアメリカで起きたスノーデン事件があります。そこでばらされたCIAなどによるネット上に飛び交う情報の監視についての話は、それまで小説や映画の中ではあったものの、現実にある話として世界中の話題になったものです。

なお、この事件は映画化もされています。

 

 

本書『背中の蜘蛛』で提起されている情報収集、プライバシーの保護という問題は、単にインターネト社会での個人情報の保護という問題にとどまりません。

それは、国家というもののあり方にまで及ぶ論点であり、われわれ個々人があらためて考えていかなければならないテーマだと思われます。

ちなみに、本書にも登場する「捜査支援分析センター(略称 SSBC)」は実在の機関です(ウィキペディア : 参照)。

[投稿日]2020年07月14日  [最終更新日]2020年7月14日
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