『魚住久江シリーズ』について
『魚住久江シリーズ』は練馬署の組対課強行犯係に勤務する女性刑事を主人公とする警察小説シリーズです。
登場人物としてはまずは主人公、四十二歳になる巡査部長の魚住久江がいます。
他に警視庁練馬警察署刑事組織犯罪対策課強行犯係のメンバーとして、係長の宮田警部補、ベテランの里谷巡査部長、最近盗犯係から移ってきた原口巡査長、そして『ドルチェ』の中ほどから強行犯係に加わった峰岸巡査がいます。
また、重要な登場人物として、警視庁刑事部捜査第一課の金本健一、四十四歳がいます。多分今も巡査部長でしょう。
誉田哲也の描く女性刑事といえばベストセラーである『姫川玲子シリーズ』の姫川玲子があげられます。
本書の特徴といえば、この姫川玲子と本書の主人公の魚住久江との差を考えることが早いと思われます。
姫川玲子は、殺人事件の捜査そのものにのめり込み、直感で犯罪の筋を読んで犯人逮捕のきっかけにたどり着きます。
それは、姫川玲子が犯罪者と同様な思考方法をとっていることから来ているのであり、『姫川玲子シリーズ』の主要登場人物の一人であるでガンテツに言わせると、非常に危険な方法なのだそうです。
しかし、姫川は自分が過去に抱えた「闇」のためかその操作方法をやめようとはしません。
一方、本シリーズの魚住久江は昇進をきっかけに警視庁捜査一課から異動してから、度重なる捜査一課への誘いにも首を縦に振らないでいます。
それは、捜査一課が殺人事件捜査の専門部署だというところにありました。所轄の強行犯係ならば、少なくとも誰かが死ぬ前に事件にかかわることができるのです。
いつの頃からか久江は「誰かが生きていてくれることに、喜びを感じるようになっ
」ていたのです。
こうした主人公の性格の差は当然物語の内容にも差が出てきます。
『姫川玲子シリーズ』では殺人事件の現場、犯人の心象も含めた背景など、かなりリアルに、結果的にグロテスクにもなっています。
それに対する姫川の捜査にしても、直感に基づくある程度強引な捜査手法も当然のようにとっていきます。
それに対し、『魚住久江シリーズ』の場合、犯行態様自体が比較的おとなしく、その裏にある人間ドラマに重きが置かれています。
人間ドラマを描くという点では『姫川玲子シリーズ』も同じといえば同じなのですが、生活に根差したところにある犯行という点でも本シリーズはより生活密着型だと思います
『魚住久江シリーズ』で特筆すべきことは、今まで比較してきた『姫川玲子シリーズ』の『オムニバス』の最終話において、姫川班に新しく配属されてくるのが魚住久江という女性だということです。
いわば『魚住久江シリーズ』と『姫川玲子シリーズ』とが合体するわけで、両シリーズの面白さがより高みを目指すことになるのでしょう。
大いに期待して待ちたいと思います。
ちなみに、この『魚住久江シリーズ』は2012年から2013年まで主人公の魚住久江を松下由樹が演じてテレビドラマ化されています。
DVD化はされていないようです。探したのですが見つかりませんでした。