ほんの出来心から携帯闇サイトのバイトに手を出したオオバカナコは、凄惨な拷問に遭遇したあげく、会員制のダイナーに使い捨てのウェイトレスとして売られてしまう。そこは、プロの殺し屋たちが束の間の憩いを求めて集う食堂だった―ある日突然落ちた、奈落でのお話。(「BOOK」データベースより)
第28回日本冒険小説協会大賞、及び第13回大藪春彦賞を受賞した、暴力とエロス、グロさ、そして愛までも加味された、インパクト十分の長編のエンターテインメント小説です。
運転をするだけで高額な報酬が約束されるという胡散臭いバイトに手を出したオオバカナコは、訳のわからないうちにバイトの雇い主とともに拉致され、自分らが埋められる穴を掘る羽目に陥ってしまいます。
必死に命乞いをするオオバカナコは、「私は料理ができる」の一言で助けられるのでした。
送り込まれた先は「キャンティーン」という食堂で、いなくなったウエイトレスの後釜として生かされたのです。
しかし、この食堂は殺し屋専用であり、それも人体を切り刻んだり、毒殺、爆殺などと普通ではない殺し屋たちの集まる場所でした。
料理に天才的な腕前を持つこの店のコックのボンベロもこの店同様に尋常ではなく、オオバカナコ以前の女たちもボンベロの手によって殺されてしまったのでした。
それでもなおカナコはある手段で生き延びます。それこそ命掛けで、運にも助けられながら生き延びるのです。
この物語は物語のプロローグとエピローグでこそ食堂の外での話が描かれていますが、それ以外の本編はすべて食堂内部での出来事です。
次々と訪れる殺し屋たちとその連れ、そしてオオバカナコ、ボンベロのやり取りで成り立ちます。
その描写のグロテスクさが凄い。誉田哲也の小説、例えば『ケモノの城』などで人間の身体の解体の場面なども出てきますが、本書の描写はその上を行きます。更にはグロさにエロスも加わり、当然ですが前提として暴力が調味料のように加味されています。
花村萬月の作品でも『ゲルマニウムの夜』のようにエロスと暴力とで彩られた作品が多々ありますが、本書はそれらがすべてなのです。
しかしながら、本書の持つエネルギー、熱量は尋常ではありません。登場人物のキャラクターは際立っていて妙な魅力があり、交わされる会話は暴力と拷問と汚物に関することだけ、といっても過言ではないのですが、それでもなおこの物語に惹きつけられます。
決して私の好みではないこの物語ですが、結局は最後まで引きずられて読み終えたのも、この本の持つ破壊的なまでの熱量によって非日常の世界へと引きずり込まれたからに他なりません。
それほどに衝撃のある作品でした。
ちなみに、本書は河合孝典の画で漫画化されています。2018年1月10日の時点では、第三話までが無料で参照することが可能です( となりのヤングジャンプ : 参照 )。
本書の冒頭部分をかなり忠実に再現してあります。ただ、三話までを読んだ限りでは、原作のインパクトには少々及ばないようですが、そこまでを要求するのは酷でしょうし、この物語を厳密にコミック化すればそれは出版が困難になると思われます
2020年1月現在で、ヤングジャンプコミックスから九巻まで出版されているようです。
ところが、本書が映画化され、2019年7月に公開されました。それも監督があの写真家である蜷川実花であり、ボンベロを藤原竜也が演じています。
蜷川実花の映像は絢爛豪華であり、本書の印象とは異なると思うのですが、どんな作品としてできているのでしょう。そういう興味はあります。