宇江佐 真理

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髪結い伊三次捕物余話シリーズ(2015年11月 完結 )

  1. 幻の声
  2. 紫紺のつばめ
  3. さらば深川
  4. さんだらぼっち
  5. 黒く塗れ
  6. 君を乗せる舟
  7. 雨を見たか
  8. 我、言挙げす
  1. 今日を刻む時計
  2. 心に吹く風
  3. 明日のことは知らず
  4. 名もなき日々を
  5. 昨日のまこと、今日のうそ
  6. 月は誰のもの
  7. 竈河岸(へっついがし)
  8. 擬宝珠のある橋

 

中心人物
伊三次 25歳 廻り髪結い 髪結い床(店舗)を持たない髪結い 不破友之進の小者
お文 25歳 権兵衛名(源氏名)を文吉という深川の芸者
おみつ 15歳 お文の身の回りの世話をする女中
不破 友之進 30歳 北町奉行定廻り同心
不破 いなみ 不破友之進の妻
不破 龍之介 不破友之進の一人息子

 

より詳しい登場人物は、「文藝春秋BOOKS 人物紹介」もしくは「ウィキペディア 登場人物」を参照してください。

 

主人公の伊三次は、廻り髪結いのかたわら北町奉行所同心の不破友之進の小者として友之進の手伝いをしています。本書は、不破友之進と小者の伊三次が種々の事件を解決していく捕物帳形式の連作短編集です。

しかし、主題は主人公の伊三次とその恋仲の深川芸者のお文との日常にあって、その二人を取り巻く人々の暮らし、想い、といった人情話が展開されていきます。

「捕物余話」であって「捕物帖」ではないのも、その点に考慮したものではないでしょうか。本格的なミステリーを期待する人には向かないかもしれません。

と個人的に書いていたら、再読時に『黒く塗れ』の「あとがき」において著者自身の言葉を見つけました。

すなわち、「余話」に注目してほしいと書いておられるのです。あくまでも「余話」であり、捕物帳ではない、と書いておられます。

 

また、そこには読者の言葉として宇江佐真理の作品にはバタ臭さが残っているので下町情緒を学んだ方がいい、というものもあったと書いておられます。

私は、そうしたバタ臭さなどという印象は全く持ちませんでした。それどころか、丁寧な江戸の町の情景描写や四季に移ろいに対する配慮など、その視線は繊細で暖かだなどと思っていたほどです。

個人的には、読後には心地良いひと時を過ごせたという満足感が残る作品だと書くほどに私の好みに合致する作品だったのです。

 

それはともかく、デビュー作の短編「幻の声」はオール読物新人賞を受賞し、シリーズの第一冊目となった『幻の声』という本は第117回直木三十五賞候補にもなりました。

私にとって、伊佐治とお文という二人の姿が人情味豊かに語られるこの物語は、人情時代小説といえばまず最初に思い浮かぶシリーズとなっています。

このシリーズは第九作の『今日を刻む時計』で一気に年月が経過し、話も伊佐治や不破友之進の子らの話に重点が移っていくのです。

 

山本周五郎藤沢周平といった大御所と比較しても決して引けを取らない作品群が並ぶ作家として楽しみにしていた人でしたが、残念ながら2015年11月に死去されてしまいました。

このシリーズも第十六作の『擬宝珠のある橋』を最後に終了となってしまいました。

 

本筋とは離れますが、このシリーズの安里英晴氏の描く装画が良い。日本画風のその絵は宇江佐真理と言う作家の丁寧なその文章が作り出す雰囲気をしっかりと捉え、切り取っていると感じます。

[投稿日]2015年04月06日  [最終更新日]2020年6月14日
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宇江佐真理「髪結い伊三次捕物余話」 - 文藝春秋BOOKS
髪結いの伊三次と深川芸者のお文が恋をして始まった、江戸の事件と人情が胸に迫る大人気シリーズが完結しました。著者がデビュー以来、大切に描き続けてきた感動の物語。

「髪結い伊三次捕物余話シリーズ」への2件のフィードバック

  1. 残念でなりません。宇江佐真理さんの死去。
    最近シリーズを読み返しています。できれば伊与太 茜の仲睦まじい夫婦の会話を読みたかった。
    夫は自分の想像力で完結すればよい。と言うています。
    もう8年の年月がこようとしています。
     宇江佐真理さん 天国でゆっくり 書いて頂けたらと ・・・
    実は私も今 とてもつらく悲しい思いをしています。

    1. コメントを有難うございます。

      宇江佐真理さんが亡くなられてもう八年も経つのですね。
      人情物語といえば宇江佐真理というほどに好きな作家さんでした。

      『心淋し川』で直木賞を受賞された西條奈加さんなどの作品にも素晴らしいものがあるのですが、それとは別に『髪結い伊三次捕物余話シリーズ』という作品の魅力には特別なものがあるようです。
      伊三次とお文夫婦、その二人の子である伊与太とお吉の兄妹たちの日々の暮らしにそっと寄り添う宇江佐真理さんの優しい筆の運びを読みたいと今でも思います。
      このシリーズを再読していたのですが、読むべき小説が多すぎていつの間にか立ち消えになっていました。何とか時間を見つけてまた最初から読み返したいものです。

      dagumaさんは今、とてもつらく悲しい思いをしておられるとのこと。お元気になられることを願っています。

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