『名もなき日々を』とは
本書『名もなき日々を』は『髪結い伊三次捕物余話シリーズ』の第十二弾で、2013年11月に文藝春秋からハードカバーで刊行され、2016年1月に文春文庫から285頁の文庫として出版された連作の人情時代小説集です。
『名もなき日々を』の簡単なあらすじ
絵師を目指す伊三次の息子・伊与太は新進気鋭の歌川国直に弟子入りが叶い、ますます修業に身が入る。だが、伊与太が想いを寄せる八丁堀同心・不破友之進の娘・茜は、奉公先の松前藩の若君から好意を持たれたことで、藩の権力争いに巻き込まれていく。伊与太の妹・お吉も女髪結いの修業を始め、若者たちが新たな転機を迎える。(「BOOK」データベースより)
『名もなき日々を』について
本書『君を乗せる舟』は『髪結い伊三次捕物余話シリーズ』の第十二弾の連作の人情時代小説集です。
伊三次とお文の子、伊与太やその妹お吉らも自らの生き方を見つめ、問い直す時期に来ています。
不破家と見れば、不破友之進の息子龍之進も友之進の後を継いで同心職に就き、早々に失策を犯したり、茜は松前藩の別式女として奉公しています。
当たり前のことではありますが、伊三次とお文が中心として展開していたこのシリーズも、数作前から伊三次と友之進それぞれの家庭の物語にその中心が移ってきています。本作でも、子供達を中心とした物語が語られ、伊三次や友之進らは、子供たちを親として見つめているのです。
そして、不破家では龍之進の妻きいのお腹が大きくなっていたりと、誰がということではなく、登場人物のそれぞれが、それぞれの人生の主役として物語の主人公となって、夫婦の、家族の物語として、たゆとう川の流れのように繰り広げられていきます。
派手さは無いものの、折々の場面での背景に映る自然の描写など、季節の移ろいを細やかに感じさせてくれる宇江佐真理の作品は、ゆっくりと心に染み入ってくるようで、やはり落ち着きます。
六年以上も前に読んだ作品であり、シリーズ六作目の『君を乗せる舟』まではブログも書いていなかったこのシリーズを、コロナ禍での再読時にあらためて書き記したため本稿とはその形態を異にしています。ここに記している文章が六年以上も前の文章であり、今後、再読時にあらためて書き直したいと思っています。
