本所五間堀の「鳳来堂」は、父親が営んでいた古道具屋を、息子の長五郎が居酒見世として再開した“夜鳴きめし屋”。朝方までやっているから、料理茶屋や酒屋の二代目や武士、芸者など様々な人々が集まってくる。その中に、かつて長五郎と恋仲だった芸者のみさ吉もいた。彼女の息子はどうやら長五郎との間にできた子らしいが…。人と料理の温もりが胸に沁む傑作。(「BOOK」データベースより)
本所、深川という江戸情緒あふれる土地を舞台に繰り広げられる、一膳めし屋を舞台にした宇江佐真理らしい人情劇です。六編からなる物語ですが、これはもう長編というべきでしょう。
本所五間堀にある「鳳来堂」は、店主長五郎の父親の音松がやっていた古道具屋でした。しかし、音松亡き後、道具の目利きもできない息子の長五郎ではそのあとを継ぐこともできず、めしと酒を出す見世を出すことにします。
しかし、母も逝き、ひとり身となった長五郎は次第に見世を開ける時間も遅くなり、店の開くのが八つ(午後8時頃)で朝方までやっている「夜鳴きめし屋」となったのです。
この店には長五郎の人柄もあって、常連さんを始め様々な人たちも訪れ、色とりどりの人情劇が繰り広げられるのですが、そのうちに長松と惣助という七、八歳位の子供が食事に来るようになります。
そのうちの一人が、むかし、長五郎と思いを交わした娘の子らしいのです。長五郎は、その子らの来るのだ楽しみになり、何かと好みの料理を作り始めるのです。
こうした、市井の人たちの人情を描かせたら宇江佐真理という作家さんはやはりうまいですね。本書は宇江佐真理という作家の作品の中では決して出来が良いほうには入らない、どちらかと言えば平均的な物語だと思うのです。
それでもなお、その平均値がとても高いところにあって、物語としての面白さは十二分にもっているのが、宇江佐真理の作品であり、作家さんだと思います。