宇江佐 真理

髪結い伊三次捕物余話シリーズ

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松前藩主の嫡子・良昌からの再三の申し出に、側室になることを決意した不破茜だが、良昌の体調が刻一刻と悪化していく。一方、才気溢れる絵を描く弟弟子から批判され、自らの才能に悩む伊与太は当代一の絵師、葛飾北斎のもとを訪ねる。人生の岐路に立つ若者たちに、伊三次とお文はなにを伝えられるのか。(「BOOK」データベースより)

 

髪結い伊三次捕物余話シリーズの十三作目の連作短編集です。

 

共に見る夢 / 指のささくれ / 昨日のまこと、今日のうそ / 花紺青(はなこんじょう) / 空蝉(からせみ) / 汝、言うなかれ

 

前巻でも書いたことですが、シリーズも十三巻目の本書ともなると、シリーズ当初の伊三次とお文の二人の話はほとんどなく、代わりにその子供達が主役となっています。

とはいえ、伊三次らも引退したわけではなくそれなりの活躍を見せてくれてはいます。ただ、前巻でもそうであったように、お文の影が薄い印象はあります。

 

「共に見る夢」
不破友之進・龍之進親子の物語です。龍之進ときい夫婦の間にに子が生まれますが、友之進の同僚の岩瀬からの祝儀が届かず、その理由が岩瀬の奥方が病で伏せているためであることを知ります。友之進はいなみと共に伊勢参りに行くことを思うのです。

「指のささくれ」
伊三次の髪結いの弟子である九兵衛は、大店である魚佐の娘のおてんとの祝言のことで悩み続けでいます。男としての矜持や気になる娘の存在など、若者の心の揺らぎが描かれています。

「昨日のまこと、今日のうそ」
友之進の長女で蝦夷松前藩江戸下屋敷に別式女として奉公している茜の物語です。松前藩嫡男である松前良昌の茜に寄せる想いをいなしつつ、良昌の病への思いやりとの間で悩む茜の心が、その重さに揺れるのです。

「花紺青(はなこんじょう)」
伊三次の息子で歌川豊光のもとで絵師の修業を続けている伊与太は、なかなかに一人前になれません。葛飾北斎のもとを訪ねた伊与太は、自分の腕の未熟さや嫉妬心などを思い知らされます。

「空蝉(からせみ)」
不破龍之進と緑川鉈五郎は、奉行所内で押し込みと通じているものがいるとして、内与力の山中寛左から内密の調査を命じられます。しかし、龍之進は同輩を疑いきれません。そうした中、父友之進も同様の密命を受けていることを知り、何か不審なものを感じるのでした。

「汝、言うなかれ」
柳町の漬物屋の村田屋を舞台にした、スピンオフのような作品です。青物問屋八百金の主である金助が殺され、村田屋の女将のおとよは、かつて信兵衛から聞いた打ち明け話を思い出して、信兵衛に対しほんの少しの疑いを抱きます。その疑いはやがて伊三次の知る所となり・・・。

 

この作者の、特に本『髪結い伊三次捕物余話シリーズ』は、読んでいる最中も、読み終えてからも、ゆるやかな時間(とき)の流れを感じさせてくれます。

こころ優しさを感じる丁寧な情景描写と共に作中人物の心情が思いやられ、特に、親としての伊三次とお文、不破友之進といなみらの心情を、やはり親としての自らの姿と重ねたりしています。

このシリーズが終わってほしくないと心から思う物語の一つです。

[投稿日]2015年07月08日  [最終更新日]2018年11月6日
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