宇江佐 真理

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寛政の改革令に反旗を翻した浮世絵板元の蔦屋重三郎は歌舞伎役者の大首絵刊行を試みる。喜多川歌麿の離反にあい、絵師探しが難航するなか、突然現れたのが正体不明の東洲齋写楽という男だった。助っ人に駆り出されたのは不遇の日々を送っていた山東京伝、葛飾北斎、十返舎一九の三人。謎の絵師を大々的に売り出そうとする重三郎のもと、計画は進んでいく…。写楽とはいったい何者なのか。そして大首絵は刊行できるのか。宇江佐真理が史実を元に描いた傑作長編。(小学館文庫)(「BOOK」データベースより)

これまでの人情時代小説の第一人者としての宇江佐真理の小説とは少々趣が異なる小説です。優しいながらも読み手の心に密やかに染み込んでくる語り手であったはずの宇江佐真理ではなく、より客観的に写楽という実像が分かっていない浮世絵師を浮かび上がらせようとしています。

写楽という絵師についてはその正体にについてさまざまなことが言われています。中でも「現在では阿波徳島藩主蜂須賀家お抱えの能役者斎藤十郎兵衛(さいとう じゅうろべえ、宝暦13年〈1763年〉 – 文政3年〈1820年〉)とする説が有力となっている(出典:ウィキペディアより)」らしく、本書でもこの立場に立って書かれています。

ただ、写楽本人を中心に描いてあるわけではありません。藩元である蔦屋重三郎を中心に、山東京伝や葛飾北斎、十返舎一九らを周りに据え、彼らの思惑の中から写楽という人物像を結実させようとしているのです。そういう意味では、松平定信の悪名高き「寛政の改革」を市民レベル、それも出版や芝居などの町民の文化という分野から見た江戸の町ということもできなくはない書き方になっています。

その実像がよく分かっていない東洲斎写楽という人については幾つかの作品が出されています。例えば、私は未読ではありますが島田荘司が著した『写楽 閉じた国の幻』という作品は、現代編と江戸編とが交錯しながらミステリー仕立てで写楽の実像に迫るという構成になっているそうです。

他に泡坂妻夫の『写楽百面相』もあります。この作品も私は未読なのですが、奇術師としても高名な泡坂妻夫の作品らしく、花屋二三という男を主人公として芸者の卯兵衛の死の謎などを絡めたミステリーであり、その中で「幕府と禁裏を揺るがす大事件」へと結びちついていく、らしいです。

[投稿日]2016年10月05日  [最終更新日]2016年10月5日
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