誉田 哲也

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新刊書

中央公論新社

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沖縄での活動家死亡事故を機に「反米軍基地」デモが全国で激化した二月、新宿署の東弘樹警部補は「左翼の親玉」を取り調べることに。その直後、異様な覆面集団による滅多刺し事件が起こる。被害者は歌舞伎町セブンにとってかけがえのない男。社会に蔓延る悪意の連鎖を断ち切るべく、東とセブンの共闘が始まる! (「BOOK」データベースより)

本書は、作品としては『歌舞伎町セブン』などの作品がある「ジウサーガ」の中に位置づけられる作品ですが、個別の作品として見ると、扱う主な事件こそ違いますが「姫川玲子シリーズ」の中の『硝子の太陽R-ルージュ』という作品と共通の事柄が扱われている非常にユニークな構成の作品です。

この両シリーズが同じ時系列に存在し、各々の登場人物がそれぞれの作品に少しずつではありますが顔を出します。これはその事実だけでも誉田哲也作品のファンにとってはたまらない話でありますが、その上、個別の作品としての面白さも普通以上にあるのですから、何もいうことはありません。

硝子の太陽R-ルージュ』では祖師谷一家殺人事件という凄惨な殺人事件について姫川らの捜査が行われることになります。そこでの姫川らの捜査線上に重要参考人として浮かび上がってきたのが上岡慎介というフリーライターでしたが、その上岡が殺されてしまいます。

一方、本書において、沖縄で起きた活動家死亡事故に関連して「左翼の親玉」と呼ばれる矢吹近江を取り調べていた東弘樹警部補の捜査線上に、上岡が沖縄での反基地闘争に絡む一枚の偽造写真についての情報を掴んでいた事実が浮かんできます。

また、この上岡というフリージャーナリストは歌舞伎町セブンのメンバーでもあり、歌舞伎町セブンにとっては上岡殺しの犯人を挙げることが弔い合戦でもあったのです。

「硝子の太陽」の両作品で上岡殺しが重要な意味を持ってくる事件となっていて、姫川と東警部補との間での情報交換が為されたり、またガンテツと東警部補との間の過去の確執が明らかにされるなどの関わりが明らかにされます。

そのガンテツと東警部補との邂逅の場面が、歌舞伎町セブン主要メンバーである「欠伸のリュウ」こと陣内陽一の店で為されるのですが、このような緊迫した場面でのそれぞれの強烈な個性の衝突が明確に描かれていて、両シリーズのファンにとってはたまらないものがあります。

ちなみに、『硝子の太陽R-ルージュ』で勝俣がくすねた上岡のUSBメモリーの件もここで明らかにされます。

本書では、別なテーマとして日米安全保障条約に伴う日米地位協定の問題を取り上げてあることも忘れてはいけません。本書での取り上げられている沖縄での活動家の死亡事故を機に起きた「反米軍基地」デモは、日本にとってこの日米地位協定の持つ意味を問題提起している側面もありそうで、自分の無知を知らされた作品でもありました。

本書『硝子の太陽N-ノワール』と『硝子の太陽R-ルージュ』とで取られている世界観の共通という手法自体は決して特別なものではありません。例えば、小説では『チーム・バチスタの栄光』から始まった、 海堂尊の「桜宮サーガ」がありますし、映画ではいま流行りのマーベルコミックでの『アイアンマン』などの『アベンジャーズ』の世界観などがあり、漫画の世界では少なからず見られますね。

しかしながら、本書のようにまで物語の構造を計算し、丁寧に構築されている作品は私の知る限りではありません。海堂尊の「桜宮サーガ」もかなりその世界観をきちんと描いているとは思いますが、それぞれの物語の世界を交通にするというだけであり、本書のようにまで物語の構造自体をリンクさせているさせているものではないようです。

いずれにしろ、本書『硝子の太陽N-ノワール』と
硝子の太陽R-ルージュ』は個人的には近年の掘り出しものだと思っています。

[投稿日]2018年03月29日  [最終更新日]2018年3月29日
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