浅田次郎

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浅田次郎の魅力が一番出ている出色のシリーズ、というのが正直な感想です。全編を貫く’粋’さ、作者の言う男のダンディズムに満ちた最高の作品だと思います。

頭(かしら)である目細の安吉を始め、寅弥(説教寅)、おこん(振袖おこん)、英治(黄不動の英治)、常次郎(書生常)という安吉一家の面々の物語を、村田松蔵(天切り松)がある時は留置場でそこに居る盗人相手に、ある時は署長室で所長相手にと昔語りをするのです。この松蔵の江戸弁が実に粋で、小気味良く、物語の中の聞き手のみならず、この本の読者までも一気にひきこまれてしまいます。

安吉一家を通して見た日本の現代史、という一面もあるかもしれません。一巻目から山県有朋や永井荷風といった歴史上実在の人物が命を得て登場するのです。これからも色々登場するのでしょう。

各話の終わり方に松蔵が一気に江戸弁で語る場面があります。改行無しで書かれた、一頁ほども一気に語られるその場面は魅力的です。一巻目で言うと、「白縫華魁」での白縫の道行、更に「衣紋坂から」の最後の松蔵の臓腑をえぐる独白など、この松蔵の江戸弁が一気に迫ってきて、涙なくして読み進めません。

三巻目の文庫本あとがきを2012年に亡くなった十八代目中村勘三郎氏が書いておられました。そこには、その台詞回しが粋で見事なのは、浅田次郎本人が江戸っ子であり、黙阿弥に影響を受けていることにあるらしいとありました(このことは「読本」の中でのお二人の対談においても語られています)。この小説の台詞回しの上手さは、歌舞伎の、それも河竹黙阿弥の台詞回しに通じているようです。先に述べた「白縫華魁」での白縫の道行など、まさに舞台上の大見得を切る場面に通じるのでしょう。

結局は「情」、とか「侠気(おとこぎ)」などという言葉で語られる日本人の心の根底にある情感に関わってくるような気がします。本書はそうした粋で固めた一級の人情話、と言いきって良いと思います。

現時点(2015年3月)現在では文庫本で4巻、新刊書で第5巻がでています。「読本」の中で筆者は「ライフワーク」だと言っておられますので、この後も続いて行くでしょうし、続いて行くことを心から願います。

天切り松 闇がたりシリーズ(2015年03月22日現在)

  1. 闇の花道
  2. 残侠
  3. 初湯千両
  4. 昭和侠盗伝
  5. ライムライト
[投稿日]2015年03月22日  [最終更新日]2015年5月9日
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