『任侠楽団』とは
本書『任侠楽団』は『任侠シリーズ』の第六弾で、2022年6月に362頁のハードカバーで刊行された長編のユーモア小説です。
今回、日村たちが駆り出されるのはオーケストラです。クラシックには全く縁がない日村たちですが、いつもとはちょっと異なる展開ですが、相変わらずに面白い作品です。
『任侠楽団』の簡単なあらすじ
問題だらけの「オーケストラ」を立て直しにきたら…まさかの事件発生で阿岐本組、大ピンチ!?あの警視庁捜査一課・碓氷弘一が「任侠」シリーズにやってきた!(「BOOK」データベースより)
阿岐本組長の兄弟分である永神健太郎が、北区赤羽にあるイースト・トウキョウ管弦楽団の内輪もめで定期公演の開催が危ういので何とかして欲しいという話を持ってきた。
阿岐本がこの話を請けない筈もなく、日村は早速翌日からオーケストラ事務局に顔を出すこととなった。
ステージマネージャーの片岡静香によると、改革者で実力主義である新任の指揮者のエルンスト・ハーンの方針に反発するベテランと、発言の機会が増えると期待する若手との間で確執が起きているらしい。
ところが翌日、練習のために現れたハーンが襲われるという事件が起きた。
しかし所轄の刑事たちは事件にしたくないようで、代わりに本庁捜査一課の碓氷という刑事が登場するのだった。
『任侠楽団』の感想
まず、本書『任侠楽団』の表記ですが、Amazonの表記に合わせ、書籍記載の『任俠』ではなく『任侠』という文字を使用しています。
さて本題ですが、本書『任侠楽団』でも、例によって阿岐本組組長の阿岐本雄蔵の兄弟分である永神健太郎が話を持ってきます。
これまでも出版社、学校、病院、浴場、映画館といろいろな業種の建て直しを図ってきた阿岐本組の面々ですが、今回はオーケストラの再建話です。
つまり、北区赤羽にあるイースト・トウキョウ管弦楽団で内紛が起こり、二週間後の十二月十八日の定期公演の開催が危ういので何とかして欲しいというものでした。
これまで同様に、クラシック音楽に関心があるわけでもない日村がオーケストラのことなど分かる筈もなく、現場で右往左往する姿が描かれます。
ところが今回は、クラシック音楽の知識はないもののジャズなどには関心があるらしく、音楽とまったく無関係でもなさそうな阿岐本組長が自ら乗り出すことになります。
本書『任侠楽団』の登場人物としては、阿岐本組関係レギュラーとして組長の阿岐本雄蔵、代貸の日村誠司、組員の三橋健一や二之宮稔、市村徹、志村真吉といったメンバーがいます。
ほかに北綾瀬署のマル暴刑事の甘糟達男とその上司の仙川修造という係長が顔だけ出します。
それよりも警視長捜査一課の碓氷という刑事の登場が本書における大きな目玉と言えます。
次いでイースト・トウキョウ管弦楽団の関係者として、事務局長の高部友郎、ステージマネージャーの片岡静香、新任指揮者のエルンスト・ハーン、前任指揮者の岩井鷹彦などが重要な登場人物です。
ほかに楽団員としてクラリネット奏者の峰岸秀一やフルート奏者の坂上京介の名が上がります。
本書『任侠楽団』がこれまでの『任侠シリーズ』の流れと異なるのは、阿岐本組長自らが乗り出す場面が多く、日村が様々な出来事に振り回されるという場面がいつもよりも少なくて済んでいることです。
そして何より大きな違いは、本書では新任の指揮者が何者かに襲われるという傷害事件が起きてしまうことでしょう。
そのことで犯人探しの要素が大きくなっており、これまでのようなシリーズ作品のように依頼を請けた業界独特の展開の中での物語という特色は、若干薄れていると思います。
しかしながら、犯人探しの要素が出てきたからこそ警視長捜査一課の碓氷という刑事が登場してくるのであり、シリーズ中の大きな目玉を持った作品になっていると思います。
さらに言えば、そのことで阿岐本雄三という組長も、阿岐本自身の活躍はほとんどないにもかかわらず、その魅力がより発揮されていると言えるかもしれません。
警視庁捜査一課の碓氷と言えば今野敏の作品群の中に『警視庁捜査一課・碓氷弘一シリーズ』というシリーズ作品があります。
本書に登場する碓氷刑事がこのシリーズの「碓氷弘一」かと思いつつ読後にネットを見ると、本書の内容紹介に「警視庁捜査一課からあの名(?)刑事がやってきて」という文言がありました。
あの「碓氷弘一」かどうかは本書内部では明記してないので正確なことは不明ですが、公式の内容紹介文に「あの警視庁捜査一課・碓氷弘一」とある以上は多分同一人物なのでしょう。
ともあれ、阿岐本組長とあの碓氷刑事とがタッグを組んで事件を解決するのですから面白くない筈がありません。
今回は甘糟刑事も上司の仙川と共にちょっとだけですが登場します。
本シリーズの今後の展開がさらに楽しくなりそうです。続巻が期待されます。