『スクエア 横浜みなとみらい署暴対係』とは
本書『スクエア 横浜みなとみらい署暴対係』は『横浜みなとみらい署暴対係シリーズ』の第五弾で、2019年2月に刊行されて2021年11月に512頁で文庫化された長編の警察小説です。
今野敏の警察小説として普通に面白い作品ではあるものの、マル暴としての諸橋と城島の二人の個性、存在感があまり発揮されているとはいいがたい作品でした。
『スクエア 横浜みなとみらい署暴対係』の簡単なあらすじ
神奈川県警みなとみらい署暴対係係長・諸橋夏男。人呼んで「ハマの用心棒」を監察官の笹本が訪ねてきた。県警本部長が諸橋と相棒の城島に直々に会いたいという。横浜山手の廃屋で発見された中国人の遺体は、三年前に消息を断った中華街の資産家らしい。事件は暴力団の関与が疑われる。本部長の用件は、所轄外への捜査協力要請だった。諸橋ら捜査員たちの活躍を描く大人気シリーズ最新刊!(「BOOK」データベースより)
『スクエア 横浜みなとみらい署暴対係』の感想
本書『スクエア 横浜みなとみらい署暴対係』は、『横浜みなとみらい署暴対係シリーズ』の第五弾作品ですが、端的に言えば、勿論 今野敏 の警察小説として普通に面白い作品です。
ただ、小説の達者な書き手が書いた小説として終わっている印象であり、マル暴刑事としての諸橋夏男警部と城島勇一警部補の二人の存在感が感じにくい作品でした。
というのも、この作者の『隠蔽捜査シリーズ』や『安積班シリーズ』などの作品は、それぞれの主人公の「竜崎署長」の「安積警部補」といった主役や、彼らを支える脇役のキャラクターが明確であり、そうしたキャラクターだからこその物語だと言えると思います。
しかし、本書『スクエア 横浜みなとみらい署暴対係』に限って言えば、マル暴としての二人の存在感を見せ、活躍する場面はそれほどでもありません。
確かに、本書での事案の対象は暴力団であり、二人の暴力団への聞き込みにより新たな事実が判明し、事件解明に役に立っているということはありますが、それはこの二人でなくても十分な情報を得ることができそうな印象が強いのです。
つまりはマル暴としての側面が明確に発揮できていると言い難いということでしょうか。
ただ、大阪からやってきた黒滝享次らと文字通り正面から喧嘩をする諸橋と城島に限って言えばその限りではなく、“ハマの用心棒”の面目躍如というところです。
あらためて 今野敏 の作品を考えると、登場人物は、本書の諸橋や城嶋にしても、行動優先のようにしていながらも頭で考えることが下地にあり、つまりは理屈面が勝っている印象があります。
もしかしたら、近時の 今野敏 の小説に論理優先という印象があり、マル暴の印象が一歩引いているのかもしれません。
本書『スクエア 横浜みなとみらい署暴対係』の内容に戻ると、主役の二人よりも、県警本部長の佐藤実という人物が気になりました。
警察官だからといって堅くある必要はなく「臨機応変、柔軟な対応」が必要だというこの本部長は、諸橋らの情報源の一つである、常磐町の神風会の神野というヤクザに興味を示したりと少々変わっています。
この本部長は 今野敏 の人気シリーズの一つである『マル暴シリーズ』の第二弾『マル暴総監』に登場する警視総監のように型破りであり、魅力的な人物です。
また、県警本部捜査二課の永田優子課長も型破りのキャリアとして描いてあり、このシリーズの憎まれ役であった笹本康平監察官とともに今後もこのシリーズの名物となりそうな気がします。
ともあれ、本書『スクエア 横浜みなとみらい署暴対係』は、土地売買に絡んだ詐欺事件の延長線上に起きた殺人事件を“ハマの用心棒”の二人が解決していく物語です。
少々半端な印象はあるものの、魅力的な登場人物の存在にも助けられ、今野敏 の警察小説として楽しめる作品であることは間違いありません。