今野 敏

マル暴シリーズ

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マル暴甘糟』とは

 

本書『マル暴甘糟』は『マル暴シリーズ』の第一弾で、2017年10月に412頁で文庫化された、長編の警察小説です。

 

マル暴甘糟』の簡単なあらすじ

 

甘糟達夫は「俺のこと、なめないでよね」が口ぐせのマル暴刑事だ。ある夜、多嘉原連合の構成員が撲殺されたという知らせが入る。コワモテの先輩・郡原虎蔵と捜査に加わる甘糟だが、いきなり組事務所に連行されてー!?警察小説史上、もっとも気弱な刑事の活躍に笑って泣ける“マル暴”シリーズ第一弾!“任侠”シリーズの阿岐本組の面々も登場!(「BOOK」データベースより)

 

北綾瀬署管内で被害者が暴力団員である殺人事件が発生した。

そこで北綾瀬署刑事組織犯罪対策課の甘糟巡査部長は相棒の先輩刑事郡原虎蔵と共に捜査本部に呼ばれることになった。

被害者の多嘉原連合構成員であるゲンこと東山源一の情報を得るためにアキラこと唐津晃のもとにいくが、ゲンが殺されたことを知ったアキラは、甘糟を組事務所へと連れていくのだった。

 

マル暴甘糟』の感想

 

本書『マル暴甘糟』は、今野敏の人気シリーズである『任侠シリーズ』のスピンオフ作品です。

本書の主人公の甘糟達夫は、そもそも任侠シリーズ』の新しいネタを探していて見つけたキャラだそうです( Jnovel : 参照 )。

そういう意味で『マル暴シリーズ』の持つユーモラスな雰囲気は、『任侠シリーズ』の雰囲気をそのまま引き継いでいると言えそうです。

 

今野敏という作家は、作品に登場するキャラクターの作り方がうまいと常に思っているのですが、本書のキャラクターもその例にもれません。

警察であるにも関わらず、「粗暴」という言葉がピタリと当てはまる印象の組織犯罪対策課、通称「マル暴」ですが、本作品の主人公の甘糟達夫は、童顔で気の弱い「マル暴」刑事なのです。

このユニークな主人公に対して配されているのが甘粕の先輩である郡原虎蔵です。

甘糟の相棒でもある群原は何かと甘糟をこき使いますが、結局は事件解決への適切な支持となっているようです。

その群原と本書『マル暴甘糟』で対立するのが、警視庁捜査一課のエリート警部補梶伴彦であり、甘糟はこの二人に振り回されることになります。

これに対し、暴力団多嘉原連合の若頭唐津晃が、被害者をかわいがっていた兄貴分として、事件をかき回す役目を担わされていています。

この唐津という男も、単なる脇役としての役割以上以上の存在感を示しており、本書の面白さに一役買っています。

 

また、本『シリーズ』が『任侠シリーズ』のスピンオフシリーズである以上、当然ですが『任侠シリーズ』の登場人物も少しですが顔を見せます。

一応、あくまで別シリーズなので、甘糟が暴力団の情報収集の一環として阿岐本組へ訪れる場面も限られてはいるようです。

 

ちなみに、今野敏には他に『逆風の街―横浜みなとみらい署暴力犯係』から始まる「横浜みなとみらい署」シリーズという「マル暴」の警官を主人公とした作品があります。

同じ今野敏という作家の書いたこの二つの作品を読み比べてみるのも面白いでしょう。

 

[投稿日]2016年10月10日  [最終更新日]2022年10月27日
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