青山 文平

イラスト1
Pocket

文庫

文藝春秋

写真は Amazon にリンクしています。

楽天Booksは かけおちる (文春文庫) [ 青山文平 ] へ。


妻はなぜ逃げたのか。直木賞受賞作家が贈る傑作時代長編

藩の執政として秘策を練る重秀はかつて、男と逃げた妻を斬った。二十年後に明らかになる女心の真相とは。松本清張賞作家の傑作。

二十二年前、妻と姦夫を成敗した過去を持つ地方藩の執政・阿部重秀。残された娘を育てながら信じる道を進み、窮乏する藩財政を救う秘策をついに編み出した今、“ある事情”ゆえに藩政を退こうとするが―。重秀を襲ういくつもの裏切りと絶望の果て、明らかになる人々の“想い”が胸に響く、感涙の時代長編。

疲弊した藩財政の建て直しのため、ある秘策を実地した藩執政の阿部重秀。男と駆け落ちした妻を切り捨てた過去があるが、順調に出世していた。二十年の時が経ち、今また娘が同じ過ちを犯した時、愕然とする重秀のとった行動は、そして、妻はなぜ逃げたのか――伝わり良く、奥行きのある独自の文章表現、江戸の風俗や生活・経済のあり様が丁寧に描き込まれ、瑞々しい心情描写で絶賛された松本清張賞作家の受賞第二作。 いま最も次作を期待される直木賞候補作家、二冊目の文庫(「BOOK」データベースより)

 

北国にある柳原藩では、執政阿部重秀が藩の財政の立て直しのために行っていた「種川」という鮭の産卵場を人の手で整える作業が実を結びつつあった。

この作業は阿部家の入婿である阿部長英の進言によるものだったが、その長英は江戸詰のため未だ「種川」成功の事実を知らずにいた。

名うての剣士でもある長英は藩の殖産を図らねばならない立場にありながら、江戸中西派一刀流の取立免状を取得することにより自藩の名を高めるべく勤めるしかない自身に悩んでいた。

 

著者の言葉によれば、「かけおちる」とは「欠け落ち」であり「駆け落ち」ですが、本書の「最後の欠け落ち」こそ集団からの脱落を意味する本来の意味での「欠け落ち」だそうで、「カタルシスを醸成」できたそうなのです。

とするならば、この最後に言う「カタルシス醸成」こそ著者の書きたかったことなのでしょうか。

 

本書でも、戦いをこそ本来の姿とすべき侍が、殖産にその身を捧げなければならない矛盾を問うてあります。

その中で、殖産のために苦悩する男を描きながら、その陰に居る妻の描写はあまりありません。でも、母と娘とで併せて三度の「駆け落ち」をしており、それが殖産事業に苦しむ阿部重秀の苦悩を深くしています。

 

阿部重秀の殖産事業に苦しむ過程の描写は前作『白樫の樹の下で』に劣りません。地方にある藩に居る親と江戸詰の子の、興産にかける侍としての生き様が簡潔な文章で描いてあります。

そして、クライマックスへと向かうのですが、物語の終わりの方で娘の語る言葉こそ本書で著者が書きたかったことではないでしょうか。そして、最後に「カタルシスを醸成」が出来ているかどうかを是非直接読んで確かめて貰いたいものです。

 

松本清張賞受賞第一作である本書は前作『白樫の樹の下で』と同じようでいてまた異なるやはり素晴らしい一冊でした。

[投稿日]2015年03月27日  [最終更新日]2018年12月28日
Pocket

おすすめの小説

読み応えのあるおすすめの時代小説

じっくりと書きこまれた、読み応えのある作品の一部です。
蜩の記 ( 葉室 麟 )
10年後の切腹を受け入れ、そのことを前提に藩譜を記す日々を送る戸田秋谷と若き侍檀野庄三郎の物語で、清冽な文章が、潔い武士の生き様を描き出しています。第146回直木賞を受賞しました。
武家用心集 ( 乙川 優三郎 )
武家社会でのしがらみに捉われている侍の、生きることの意味を問うている短編集で、第10回中山義秀文学賞を受賞しています。非常に丁寧な文章で、登場人物の内面を静かに説き起こすような、心に直接語りかけてくるような作品を書かれる作家さんです。
海坂藩大全 ( 藤沢 周平 )
藤沢周平作品によく登場する海坂藩を舞台にした物語を集めた作品集です。藤沢周平という作家も多くの名作を世に出されており、絞りにくいのですが、本書はいろいろな作品を収めており、紹介作品として挙げるのはおかしいかもしれません。
樅ノ木は残った ( 山本 周五郎 )
NHKで大河ドラマの原作として取り上げられたこともあります。それまで悪役としての評価しか無かった伊達騒動の原田甲斐の生きざまは、夫々の心の奥底に個々の生き方を問いかけます。
柳生兵庫助 ( 津本 陽 )
エンターテインメント性の強い作品です。文庫本で全6巻という長編ではありますが、尾張柳生家の祖である柳生兵庫助の生涯を描いた作品です。剣豪小説の中では忘れてはならない作品だと思います。
真剣 新陰流を創った男、上泉伊勢守信綱 ( 海道 龍一朗 )
この作品もエンターテインメント性が強い作品で、剣豪を小説描いた小説ではベストにはいる面白さを持った作品です。

関連リンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です