青山 文平

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文庫

文藝春秋

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北国にある柳原藩では、執政阿部重秀が藩の財政の立て直しのために行っていた「種川」という鮭の産卵場を人の手で整える作業が実を結びつつあった。この作業は阿部家の入婿である阿部長英の進言によるものだったが、その長英は江戸詰のため未だ「種川」成功の事実を知らずにいた。名うての剣士でもある長英は藩の殖産を図らねばならない立場にありながら江戸中西派一刀流の取立免状を取得することにより自藩の名を高めるこべく勤めるしかない自身に悩んでいた。

著者の言葉によれば、「かけおちる」とは「欠け落ち」であり「駆け落ち」ですが、本書の「最後の欠け落ち」こそ集団からの脱落を意味する本来の意味での「欠け落ち」だそうで、「カタルシスを醸成」できたそうなのです。とするならば、この最後に言う「カタルシス醸成」こそ著者の書きたかったことなのでしょうか。

本書でも、戦いをこそ本来の姿とすべき侍が、殖産にその身を捧げなければならない矛盾を問うてあります。その中で、殖産のために苦悩する男を描きながら、その陰に居る妻の描写はあまりありません。でも、母と娘とで併せて三度の「駆け落ち」をしており、それが殖産事業に苦しむ阿部重秀の苦悩を深くしています。

阿部重秀の殖産事業に苦しむ過程の描写は前作『白樫の樹の下で』に劣りません。地方にある藩に居る親と江戸詰の子の、興産にかける侍としての生き様が簡潔な文章で描いてあります。そして、クライマックスへと向かうのですが、物語の終わりの方で娘の語る言葉こそ本書で著者が書きたかったことではないでしょうか。そして、最後に「カタルシスを醸成」が出来ているかどうかを是非直接読んで確かめて貰いたいものです。

松本清張賞受賞第一作である本書は前作『白樫の樹の下で』と同じようでいてまた異なるやはり素晴らしい一冊でした。

[投稿日]2015年03月27日  [最終更新日]2016年1月25日
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