『白樫の樹の下で』とは
本書『白樫の樹の下で』は、2011年6月に文藝春秋から刊行され、2013年12月に文春文庫から269頁の文庫として出版された、長編の時代小説です。
文章は硬質で空気感は濃密でありながら、かなりの透明感をもって読み手に迫ってくると感じる非常に心に残った作品でした。
『白樫の樹の下で』の簡単なあらすじ
賄賂まみれだった田沼意次の時代から、清廉潔白な松平定信の時代に移り始めた頃の江戸。幕府が開かれてから百八十年余りたった天明の時代に、貧乏御家人の村上登は、道場仲間と希望のない鬱屈した日々を過ごしていたが、ある時、一振りの名刀を手にしたことから物語が動きだします。第18回松本清張賞受賞作。(「BOOK」データベースより)
『白樫の樹の下で』の感想
本書『白樫の樹の下で』は、江戸時代も中期、侍が侍たり得ることが困難の時代を、なおも侍であろうとした三人の若者の物語です。
「白樫の樹の下で」というタイトルは佐和山道場が白樫の樹の下でにあるところからきています。
とにかく硬質でありながら、濃密な空気感をも持った文章です。
第146回直木賞を受賞した『蜩ノ記を書いた』葉室麟の文章も簡潔で格調の高い文章だと思いましたが、この作家の文章の透明感は凄いです。
「人を斬る」というそのことについての懊悩が、叩けば音がするような文章で描写されています。
もちろん、読者は剣のことなど何も知りませんし、当然「斬る」という感覚も知らないのですが、あたかも若者の懊悩が感覚として理解できたかのような感じに打たれます。
また、主人公の村上登の前に横たわる想い人の描写などは素晴らしく、そこに「白麻の帷子(かたびら)を着けた佳絵」という人が横たわる場面をそのままに切り取ったかのようで、その臨場感、村上登の心理描写には驚きました。
これまで作家と呼ばれる人たちの文章の凄さには何度か脱帽させられましたが、この青山文平という人の文章も見事としか言いようがありません。
更に驚かされたことは、青山文平という人は私と殆ど同世代ということです。
また、二十年ほど前に第十八回の中央公論新人賞をとったことがあるけれども時代小説は本作品が初めてということもそうです。
時代小説の新たな書き手として期待されているという言葉も当然のことだと感じました。
本作品『白樫の樹の下で』の物語としての面白さは勿論のこと、どなたか「詩的」な文章と書いておられましたが、日本語の美しさ、表現力の豊かさを思い知らされた一冊でもありました。