青山 文平

イラスト1
Pocket

文庫

新潮社

写真は Amazon にリンクしています。

楽天Booksは 半席 (新潮文庫) [ 青山 文平 ] へ。


本書『半席』は、徒目付の片岡直人が上司から命じられた腑に落ちない事件の「真の動機」を解明していく短編の時代小説集です。

隠された人間の真実を明らかにするとき、そこにはそれまでは見えていなかったある生き方が見えてきます。青山文平らしい読みごたえのある作品集でした。

 

御家人から旗本に出世すべく、仕事に励む若き徒目付の片岡直人。だが上役から振られたのは、不可解な事件にひそむ「真の動機」を探り当てる御用だった。職務に精勤してきた老侍が、なぜ刃傷沙汰を起こしたのか。歴とした家筋の侍が堪えきれなかった思いとは。人生を支えていた名前とは。意外な真相が浮上するとき、人知れずもがきながら生きる男たちの姿が照らし出される。珠玉の武家小説。(「BOOK」データベースより)

 

青山文平の短編作品集の一つに『春山入り』という作品集があります。

以前は『約定』と題されていたその本の中に、筏(いかだ)の上を走り堀に飛び込み死亡した侍について書かれた「半席」という短編がありました。本書第一作目の「半席」がそれです。

 

 

本書『半席』は、作者がこの「半席」という短編を気にいったためか、この短編に登場する片岡直人を主人公に、新たに物語を紡ぎ出し、一冊の作品集として仕上げたものです。

この片岡直人の徒目付、つまりは監察役という職種を生かし、既に処分は決まっているもののはっきりとした理由が分かっていない事件の真実を聞き出すという職務を遂行させるのです。

それは罪を負うべき事柄の理由を明らかにしない当事者の、責めを負うに至った本当の理由を明らかにしようとするのであり、推理小説で言うホワイダニット(Why done it)ものということもできます。

つまりは、本書『半席』は、ただ処分を待つだけの老人たちから話を聞き、その本質を見つけるミステリーとしての面白さを持った作品なのです。

そして、片岡が彼ら老人の人間としての真実に触れることでこれまで見えていなかったものが見えてくる、その人間模様の奥深さをもあわせ持った作品集ということができます。

片岡の上司の内藤康平によれば、片岡直人の青臭さこそが犯人も本音を言う気になるだろう、ということです。この内藤康平という男がまた面白く、この物語の魅力の一つになっています。

 

それぞれの話を簡単にみると、

「半席」では、筏(いかだ)の上を走り、堀に飛び込み死亡した侍。
「真桑瓜」では、共に八十歳以上の侍同士の刃傷沙汰。
「六代目中村庄蔵」は、一季奉公の侍の主殺し。
「蓼を喰う」は、辻番所組合の仲間内を手に掛けた御庭番。
「見抜く者」は、徒歩目付の仕事の中でも特に人の恨みを買いやすい人物調べの絡んだ話。
「役替」は、同じ町内の、共に召し挙げられた仲間の父親との思いもかけない邂逅がもたらした行く末。

の真相を聞き出す、という話です。

 

本書『半席』は、私にとっても他人ごとではない、「老い」の末に自らの人生を思い起こすときにもたらされる悲痛な感情を描き出した好編ばかりです。

また、片岡直人という青年が内藤康平という上司に見守られながら成長していく物語でもあります。

 

「役目柄『なぜ』だけではなく、事態を『いかに』収めるか、ということが問われる話もある。」と書いておられたのは文芸評論家の杉江松恋氏です。

青山文平という一押しの作家のお勧めの作品がまた増えました。

[投稿日]2017年05月28日  [最終更新日]2020年8月10日
Pocket

おすすめの小説

読み応えのあるおすすめの時代小説

じっくりと書きこまれた、読み応えのある作品の一部です。
海坂藩大全 ( 藤沢 周平 )
藤沢周平作品によく登場する海坂藩を舞台にした物語を集めた作品集です。藤沢周平という作家も多くの名作を世に出されており、絞りにくいのですが、本書はいろいろな作品を収めており、紹介作品として挙げるのはおかしいかもしれません。
蜩の記 ( 葉室 麟 )
10年後の切腹を受け入れ、そのことを前提に藩譜を記す日々を送る戸田秋谷と若き侍檀野庄三郎の物語で、清冽な文章が、潔い武士の生き様を描き出しています。第146回直木賞を受賞しました。
武家用心集 ( 乙川 優三郎 )
武家社会でのしがらみに捉われている侍の、生きることの意味を問うている短編集で、第10回中山義秀文学賞を受賞しています。非常に丁寧な文章で、登場人物の内面を静かに説き起こすような、心に直接語りかけてくるような作品を書かれる作家さんです。
家康、江戸を建てる ( 門井 慶喜 )
徳川家康が江戸に新たな街づくりを始めるに際しての物語で、全五話の短編からなる時代小説集で、第155回直木賞候補になった作品です。
樅ノ木は残った ( 山本 周五郎 )
NHKで大河ドラマの原作として取り上げられたこともあります。それまで悪役としての評価しか無かった伊達騒動の原田甲斐の生きざまは、夫々の心の奥底に個々の生き方を問いかけます。

関連リンク

青山文平 『半席』 | 新潮社
直木賞受賞後第一作。あざやかな着想、あざやかな筆さばき。六十歳をこえてデビューした人が、ためこんだ元手で一挙に花を咲かせたぐあいだ。
【書評】コラムニスト上原隆が読む『半席』青山文平著 絶妙の間合いの上司と部下
「普通の女」だと思っていても、結婚すると「普通の女」などいないことがわかる。そして、歳(とし)を取ると男同士の方がずっと気楽なことに気づく。だからだろうか、受賞後最初の本作は男同士の話となっている。
書評・最新書評 : 半席 [著]青山文平 - 末國善己(文芸評論家) | BOOK
男女の相克を描く短編集『つまをめとらば』で直木賞を受賞した著者の受賞後第一作は、男同士の複雑な関係に迫る連作集である。
杉江の読書 bookaholic認定2016年度国内ミステリー5位 青山文平『半席』(新潮社)
青山文平『半席』は、ミステリーとしても秀逸、という同業者の言葉を聞いて手に取った作品である。・・・武家社会でなければ成立しない設定を用いた点に趣向がある。
青山文平 “フルスペックの人間”を描きたい | レビュー | Book Bang -ブック
直木賞受賞後第一作『半席』の刊行にあたり、青山さんに自問自答の形でエッセイをお書きいただきました。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です