『継続捜査ゼミ』とは
本書『継続捜査ゼミ』は『継続捜査ゼミシリーズ』の第一弾で、文庫本で448頁の長さの、長編の推理小説です。
『継続捜査ゼミ』の簡単なあらすじ
元刑事、警察学校校長を最後に退官した小早川の再就職先は三宿女子大学。「刑事政策演習ゼミ」、別名「継続捜査ゼミ」を担当し、5人の女子大生と挑む課題は、公訴時効廃止後の未解決の殺人等重要事案。逃走経路すらわからない15年前の老夫婦殺人事件だった。警察小説の名手が贈る、新たなる捜査が始まる!(「BOOK」データベースより)
今回、継続捜査ゼミで取り上げられるのは十五年前に目黒署管内で起きた、老夫婦が居直り強盗に殺されたとみられている強盗殺人事件だった。
学生たちは、ゼミのオブザーバとして加わっている目黒警察署の安斎幸助巡査部長が提供してくれた捜査資料を基に事案を検討していく。
『継続捜査ゼミ』の感想
本書『継続捜査ゼミ』では、元刑事で警察学校校長でもあった小早川一郎教授の刑事政策演習ゼミのゼミ生たちの推理という形式で物語が進みます。
そして、今回のゼミテーマが、かつて目黒署管内で起きた強盗殺人事件だったのです。
この事件が当時考えられていた居直り強盗であるのならば、犯人は夫妻を殺害する時間があるのならば何故に逃亡しなかったのか、また昼間の時間帯であるにもかかわらず逃亡する犯人の目撃者がいないのは何故なのかなど、学生たち自身の疑問をもとに綿密に検討していくのです。
学生たちはそれぞれに法律や薬学、歴史などの得意分野を有していて、その専門家はだしの知識をもとに推論を裏付けていきます。
そうした学生たちのゼミのテーマに対する討論とは別に、サブストーリーともいうべき別な事件も検討対象になります。
それは一つには小早川の同僚の竹芝教授の相談であり、全く身に覚えのない自分と学生とのホテルから出てくる写真についてのものでした。
さらに、学内で起きている運動靴の片方だけが盗まれる事件です。
これらの事件を小早川が中心となって学生らとともに解決していきます。
改めて考えるまでもなく、今野敏の小説は事案を単純化してある上に、登場人物の思考過程をさらりとした文章で表現してあるためか、非常に読みやすいものになっています。
例えば人気シリーズの一つである『安積班シリーズ』を見てもすぐにわかることですが、起きた事件の犯人を絞り込む安積の思考過程を簡潔に記してあり、その論理が分かりやすく素直に頭に入ってきます。それはすなわち王道の思考方法をとっているからでしょう。
正論を正論としてストレートに発言するのはこれまた人気シリーズの『隠蔽捜査シリーズ』の主人公竜崎ですが、この竜崎の思考方法の、論理を素直に考察する方法はほかの作品でもみられるところだと思います。本書もまた同様なのです。
そうしたわかりやすいロジックを素直な文章で描き出す今野敏の手法がはっきりと出ている作品だともいえると思います。