誉田 哲也

ジウサーガ

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ノワール 硝子の太陽』とは

 

本書『ノワール 硝子の太陽』は『ジウサーガ』第八弾の、文庫本で373頁の長編のエンターテイメント小説です。

本書は『姫川玲子シリーズ』と交錯する作品であって、個人的にはこのシリーズで一番面白く、またのめり込んで読んだ作品でした。

 

ノワール 硝子の太陽』の簡単なあらすじ

 

沖縄の活動家死亡事故を機に反米軍基地デモが全国で激化する中、新宿署の東弘樹警部補は、「左翼の親玉」を取調べていた。その矢先、異様な覆面集団による滅多刺し事件が発生。被害者は歌舞伎町セブンにとって、かけがえのない男だったー。『硝子の太陽N ノワール』を改題し、短篇「歌舞伎町の女王ー再会」を収録。(「BOOK」データベースより)

 

 

ノワール 硝子の太陽』の感想

 

本書『ノワール 硝子の太陽』は、作品としては『歌舞伎町セブン』などの作品がある「ジウサーガ」の中に位置づけられる作品です。

しかし、個別の作品として見ると、扱う主な事件こそ違いますが『姫川玲子シリーズ』の中の『ルージュ: 硝子の太陽』という作品と共通の事柄が扱われている非常にユニークな構成の作品です。

この両シリーズが同じ時系列に存在し、各々の登場人物がそれぞれの作品に少しずつではありますが顔を出します。

これはその事実だけでも誉田哲也作品のファンにとってはたまらない話でありますが、その上、個別の作品としての面白さも普通以上にあるのですから、何もいうことはありません。

 

 

ルージュ: 硝子の太陽』では祖師谷一家殺人事件という凄惨な殺人事件について姫川玲子らの捜査が行われることになります。

そこでの姫川らの捜査線上に重要参考人として浮かび上がってきたのが上岡慎介というフリーライターでしたが、その上岡が殺されてしまいます。

一方、本書『ノワール 硝子の太陽』において、沖縄で起きた活動家死亡事故に関連して「左翼の親玉」と呼ばれる矢吹近江を取り調べていた東弘樹警部補の捜査線上に、上岡が沖縄での反基地闘争に絡む一枚の偽造写真についての情報を掴んでいた事実が浮かんできます。

また、この上岡というフリージャーナリストは歌舞伎町セブンのメンバーでもあり、歌舞伎町セブンにとっては上岡殺しの犯人を挙げることが弔い合戦でもあったのです。

 

『硝子の太陽』の両作品で上岡殺しが重要な意味を持ってくる事件となっていて、姫川と東警部補との間での情報交換が為されたり、またガンテツと東警部補との間の過去の確執が明らかにされるなどの関わりが明らかにされます。

そのガンテツと東警部補との邂逅の場面が、歌舞伎町セブン主要メンバーである「欠伸のリュウ」こと陣内陽一の店で為されるのですが、このような緊迫した場面でのそれぞれの強烈な個性の衝突が明確に描かれていて、両シリーズのファンにとってはたまらないものがあります。

ちなみに、『ルージュ: 硝子の太陽』で勝俣がくすねた上岡のUSBメモリーの件もここで明らかにされます。

 

本書『ノワール 硝子の太陽』では、別なテーマとして日米安全保障条約に伴う日米地位協定の問題を取り上げてあることも忘れてはいけません。

本書での取り上げられている沖縄での活動家の死亡事故を機に起きた「反米軍基地」デモは、日本にとってこの日米地位協定の持つ意味を問題提起している側面もありそうで、自分の無知を知らされた作品でもありました。

 

本書『ノワール 硝子の太陽』と『ルージュ: 硝子の太陽』とで取られている世界観の共通という手法自体は決して特別なものではありません。

例えば、小説では『チーム・バチスタの栄光』から始まった、海堂尊の「桜宮サーガ」がありますし、映画ではいま流行りのマーベルコミックでの『アイアンマン』などの『アベンジャーズ』の世界観などがあり、漫画の世界では少なからず見られます。

 

しかしながら、本書『ノワール 硝子の太陽』のように物語の構造を計算し、丁寧に構築されている作品は私の知る限りではありません。

海堂尊の「桜宮サーガ」もかなりその世界観をきちんと描いているとは思いますが、それぞれの物語の世界を共通にするというだけであり、本書のようにまで物語の構造自体をリンクさせているさせているものではないようです。

いずれにしろ、本書『ノワール 硝子の太陽』と『ルージュ: 硝子の太陽』は個人的には近年の掘り出しものだと思っています。

[投稿日]2018年03月29日  [最終更新日]2021年10月31日
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