今野 敏

安積班シリーズ

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炎天夢 東京湾臨海署安積班』とは

 

『炎天夢 東京湾臨海署安積班』は、『安積班シリーズ』第十九作目の、文庫本で368頁の長編の警察小説です。

今野敏のいつもの『安積班シリーズ』であり、いつも通りに面白い物語です。しかし、それ以上の特別な作品というものではありませんでした。

 

炎天夢 東京湾臨海署安積班』の簡単なあらすじ

 

東京湾臨海署管内で強盗事件が発生。強行犯第一係は、交機隊小隊長・速水の協力を得て、夜明けを待ち家宅捜索を開始、犯人の身柄を確保した。しかし、続けざまに無線が流れ、江東マリーナで死体が浮かんだという。被害者はグラビアアイドルの立原彩花と判明。近くのプレジャーボートで被害者のものと思われるサンダルが見つかった。ボートの持ち主は、立原が愛人との噂がある芸能界の実力者だというが…。芸能界を取り巻くしがらみに、安積班が立ち向かう!ドラマ化常連の大人気シリーズ待望の文庫化。(「BOOK」データベースより)

 

グラビアアイドルの殺人事件の容疑者とされる男は芸能界のドンと呼ばれる大物の柳井武春でした。

問題は、その事実が捜査に陰に陽に影響を与えかねないということです。

グラビアアイドルの殺害現場が柳井の所有するプレジャーボートであり、柳井自身が暴力団とのつながり疑われ、さらに被害者が柳井の愛人との噂があることなどから、柳井の何らかの関与が疑われます。

ところが、普段は出席しない刑事部長が捜査本部の会議に出席し、この事件に関心を示すのでした。

そんな中、安積班の須田三郎巡査部長が、いつものように数年前の覚せい剤関連の事件からひっかかりを覚え、そこから小県は新たな展開を見せていきます。

そして、ここでも安積の天敵とも言うべき警視庁捜査一課の佐治基彦警部は安積らの捜査方針に反対意見ばかりを言い、難癖をつけようとするのでした。

 

炎天夢 東京湾臨海署安積班』の感想

 

本書では、現代の芸能界の実情として巷で噂のパワーバランスを意識したであろう舞台設定となっています。

そして、今回もこのシリーズのほかの作品と同様に安積班のメンバーそれぞれの活躍が描かれています。

つまり、安積警部補個人の動きではなく、安積班のチームとしての活動が描かれているのです。

 

本書を全体的に見て、安積警部補シリーズのなかでは特に印象深い作品とは思えませんでした。

一つの事柄を丁寧につぶし、あらゆる場面を想定し捜査を進めるという態度は変わりません。安積班の仲間の活躍もいつもと同じです。

でも、それだけであり、それ以上のものはありません。

警察小説として面白く、さすが安積警部補シリーズだとは思います。しかし、身勝手なファンの思いとしては平均的な面白さではなく、平均以上の特別な面白さを求めてしまいます。

平均的な面白さを持続することがどれだけ大変なことかを思うと、作者にとっては単に迷惑なファンだとは思いますが、それが正直な気持ちです。

 

安積にライバル心を隠さない相良の思わぬ一面を垣間見せる様子もあり、また捜査員の水野に対するセクハラが発生しないように配慮する安積の姿もあります。

こうした点は、つまりはいつもと同じシリーズ内容です。

安積の他の登場人物に対する心象を詳しく描写しながら安積の人間性を浮かび上がらせているところや、班員たちの個性を際立たせているところもまたいつも通りです。

結局は面白い警察小説だ、というしかありません。

 

ちなみに、本書タイトルの「炎天夢」とは、柳井武春の所有するプレジャーボートの船名が「アブラサドール」というスペイン語の「炎天下」などを意味するところからきていると思われます。

また、本書『炎天夢 東京湾臨海署安積班』は『安積班シリーズ』では第十九作目の作品だと冒頭に紹介していますが、厳密に『東京湾臨海署安積班』の物語としてみると十三作目になると思われます。

ただ、安積警部補とその仲間の物語としてみると『東京ベイエリア分署』での話からとなり、十九作目となります。

ご了承ください。

[投稿日]2019年08月26日  [最終更新日]2021年9月20日
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「炎天夢 東京湾臨海署安積班」今野敏著|日刊ゲンダイDIGITAL
東京湾臨海署に、江東マリーナで死体が揚がったとの報が入り、強行犯第1係、通称安積班の面々が現場に駆けつける。被害者はグラビアアイドルの立原彩花。絞殺後、海に遺棄されたとみられるが、彼女のサンダルがマリーナに係留されていたプレジャーボートの船上で見つかる。

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