『機捜235』とは
本書『機捜235』は2019年3月に刊行され2022年4月に文庫化された、文庫本で312頁の連作短編の警察小説集です。
渋谷署の分駐所に詰めている第二機動捜査隊に所属している機動捜査隊員の高丸卓也を主人公とする作品で、とても面白く読みました。
『機捜235』の簡単なあらすじ
渋谷署に分駐所を置く警視庁第二機動捜査隊所属の高丸。公務中に負傷した同僚にかわり、高丸の相棒として新たに着任したのは、白髪頭で風采のあがらない定年間際の男・縞長だった。しょぼくれた相棒に心の中で意気消沈する高丸だが、実は、そんな縞長が以前にいた部署は捜査共助課見当たり捜査班、独特の能力と実力を求められる専門家集団だった…。(「BOOK」データベースより:新刊書用)
『機捜235』の感想
機動捜査隊(きどうそうさたい)とは、都道府県警察本部の刑事部に設置されている執行隊、つまり、様々な事案に機動的に対応することを目的として、任務に応じ専門分化した組織のことを言い、通称は機捜隊(きそうたい)、または機捜(きそう)と呼ばれています。
この機動捜査隊は、重要事件の初動捜査の効率化および犯行予測による邀撃捜査によって、犯罪発生の初期段階で犯人を検挙することを目的としている組織であって、通常は捜査車両に二名で乗車し担当管轄内の密行警ら(パトロール)に従事しますが、重要事件発生の際は犯罪現場に急行し、事件の初動捜査に当たることを任務としています。( 以上 ウィキペディア : 参照 )
本書『機捜235』のタイトル「機捜235」というのは主人公らが乗る機捜車のコールサインのことです。最初の2は第2機動捜査隊を、次の3は第3方面隊を、最後の数字はこの班の5番目の車ということを意味します。
そして、この機動捜査隊は拳銃を常時携行するほどに危険性も有しているのだそうです。
本書『機捜235』の主人公は高丸卓也といい、その相棒は梅原という同年代の男でした。
しかし、梅原はある事故で入院することとなり新たなパートナーと組むことになります。その相棒が縞長であり、見当たり捜査のベテランだったのです。
本書は、この縞長のおかげで警察官として成長していく主人公の姿が描かれている、全部で九話からなる連作の短編集です。
本書『機捜235』第一話の「機捜235」では新しい相棒となる縞長との出会い、そして縞長の意外な能力の紹介があります。
次いで、またもや縞長の見当たりの能力により指名手配犯の逃走を未然に防ぎ、柔道三段、合気道五段という腕前も明らかになります(第二話「暁光」)。
こうして全九話の話が進んでいくのですが、当初は機動捜査隊員として何の疑念もなく役割分担としての初動捜査のみをこなしていた主人公です。
しかし、物語の進行の中で移動捜査隊の職務を紹介しながらも、日常の業務をこなしていく縞長の職務態度に接し、警察官としてのあり方を学んでいくのです。
以前読んだ今野敏の作品で『精鋭』という作品がありました。
この作品は警察学校での現場研修などを経て所轄署へ配属後、身体を張って国を守る部署だと教えられた警備部機動隊へ転任し、最終的にはSAT隊員として成長していく、一人の警察官の成長物語です。
普通の刑事の活躍を描くミステリーとしての警察小説ではなく、機動隊での生活を描く、警察の職務の紹介を兼ねた職業小説であり、ある種の青春小説ともいえるこの作品はユニークなものでした。
本書『機捜235』は、機動捜査隊の紹介という側面を持ち、さらに機捜隊所属の主人公の成長物語でもあるという点で『精鋭』という作品を思い出させるものでした。
通常の刑事警察ではない警察小説としては横山秀夫の作品がそうで、『64(ロクヨン)』もそうでした。
所轄の警察の広報官を主人公とする秀逸なミステリーであるこの作品は、ベストセラーとなり、話題のピエール瀧の主演でNHKでドラマ化されましたし、佐藤浩市主演で映画化もされました。
警察内部の異色の職種という点で本書と似たものがありますが、ただ、広報の職務の紹介という側面はそれほど強調されない、やはりミステリーとしての面白さがメインの警察小説でした。
本書『機捜235』の面白さはやはり、新しい相棒である縞長の見当たり捜査という特殊技能を持った人物の存在でしょう。
柔道三段、合気道五段の腕前をもって指名手配犯人を次々に捕まえながら、主人公の警察官としての成長の範となる存在は魅力的です。
この作品もシリーズ化されるのでしょうか。できれば続きを読みたいものです。