青山 文平

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2016年1月19日に、時代小説では私が一番好きな作家さんと言ってもいい青山文平氏が直木賞を受賞されました。その作品が本書『つまをめとらば』です。六編の物語からなる短編集です。

「ひともうらやむ」 長倉克巳は長倉家本家の総領であって眉目秀麗で目録の腕前を持つ秀才、一方長倉庄平は長倉分家の分家の総領です。女ならば誰しも惚れるであろう克巳が、皆のあこがれの的であった、浅沼一斎という医師の娘の世津を娶ることになった。しかし・・・。

「つゆかせぎ」 妻の朋が急な心臓の病で逝って二十日ばかり後、地本問屋(今の本屋)の手代だという男が朋を訪ねてきた。朋は竹亭化月の筆名で戯作を頼んでいたという。朋は木挽町の芝居小屋の娘であったため意外ということでもなかったのだが・・・。

「乳付」 民恵は神尾信明に嫁ぎ長男新次郎を産んだが、産後の肥立ちが悪く我が子に乳をやることもできないでいたため、瀬紀という遠縁の妻女に乳付をしてもらうことになった。瀬紀は民恵と同じ年かっこうであったが、同じ女でも魅入られてしまうほどに輝いていた。

「ひと夏」 部屋済みである高林啓吾は石山道場奥山念流目録の腕前を持っていた。ある日、誰が赴任しても二年ともたないという御勤めを仰せつかった。現地に赴任すると、百姓たちは藩の役人をあからさまに見下すが、それに対し何もできない事情があった。

「逢対」 竹内泰郎は無役の旗本であったが、幼馴染の北島義人と共に、無益の者が出仕を求めて日参する「逢対」に同行すると、自分だけ呼び出されることになった。

「つまをめとらば」 深堀省吾は幼馴染の山脇貞次郎に家作を貸すこととなった。妻の不義で離縁したため独り身の省吾にとり、気の置けない幼馴染との暮らしは心地よいものだったが、貞次郎には思いを寄せている娘がいて、言い出せずにいるというのだった。

著者は「女は本質的に、人間の存在の地肌で生きてい」て、そして「男は女を通じてはじめて、人間の存在の地肌に触れることができる。」と言っています。人間としての在り方が、男は女を通してしか実現できなと言っているようです。「男がしでかす諸々の問題も、さかのぼれば、その多くは、根源的なよるべなさに行き着くのではないでしょうか。」ということになるのです。

本書はそうした男どもの存在をあからさまに描き出してあります。

ただ、これまでのこの作家の物語と、少しですが趣が異なります。女性をモチーフにしているからでしょうか、全体的にどことなくユーモアという薄幕をまとわらせてあるのです。

また、これまでの作品では“侍”を前面に押し出し、その生き方を直截的に描くことが多かったと思います。勿論これまでもユーモラスな物語が皆無だというわけではありません。しかし、それらの作品も結局は“侍の生き方”に結びつくものでした。本書の場合、「乳付」を除いてはやはり主人公は男で、さまざまな女性の形を描くことで男である主人公の内面を描き出してはいるのですが、特に「ひと夏」や「つまをめとらば」は侍というよりは一個の人間を描いてある、と言えるのではないでしょうか。

現在のあまたおられる時代小説作家の中で一番私の好みに合致するのがこの青山文平という作家さんです。侍のあり方を問う物語の組み立て、硬質ではあるものの格調高く、品格を保っているその文章は心揺さぶられるものがあるのです。

[投稿日]2016年01月24日  [最終更新日]2016年1月24日
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