『槐(エンジュ)』とは
本書『槐(エンジュ) 』は2015年3月に刊行されて2017年6月に光文社から400頁で文庫化された、長編の冒険小説です。
『槐(エンジュ)』の簡単なあらすじ
水楢中学校野外活動部の弓原公一らが合宿で訪れた湖畔のキャンプ場で、惨劇は起こった。隠された大金を捜す半グレ集団・関帝連合がキャンプ場を封鎖し、宿泊客を虐殺し始めたのだ。囚われの身となった公一たち。だが絶体絶命の状況下、突然何者かが凶悪集団に反撃を開始した!謎の闘士と中学生たちが決死の脱出に挑む。今最も旬な著者による戦慄と興奮の物語。(「BOOK」データベースより)
『槐(エンジュ)』の感想
本書『槐(エンジュ)』は、典型的なアクションエンターテインメント作品です。
とにかく、物語のリアリティーなど全く無視した、アクションを見せるためだけの舞台設定であり、物語の筋立てです。本書を読んですぐは、この物語の舞台設定の安易さに驚いたというのが正直なところで、それくらい荒唐無稽な話です。
なにせ、半グレ集団がキャンプ場をおそい、そのキャンプ場にいる人間を皆殺しにするところから始めるのですからたまりません。その後の物語の展開も、いくらなんでも、と思わせられる場面が相次ぎ、感情移入などという話どころではなかったのです。
同じ月村了衛の作品では『ガンルージュ』でも似たような印象を持ったのですが、本作はそれ以上でした。
両作品共に、普通人として生活している女性が、実はその世界では名の通った戦士であり、圧倒的な暴力により殺されそうになっている子供たちを救出する、という点で共通しています。
ただ、私には『ガンルージュ』のほうがより、受け入れやすい設定だった、というだけです。
そして、本書を読んで時間を経たいまでは、痛快アクション小説として単純に楽しむべき小説であり、それ以上のものを求めるといけないと思うようになりました。
そう思って本書『槐(エンジュ)』を読むと単純に痛快物語であり、ある種のカタルシスを得ることができると思います。
単純な痛快物語という点では大沢在昌の作品の中にもその荒唐無稽さにおいて似たところを持つ作品群があります。
まず思い出すのは『天使の牙シリーズ』でしょうか。
銃撃戦で頭部以外をハチの巣にされた麻薬取締官神崎アスカが、脳移植により女マフィアの美しい肉体を得て、かつてのパートナー仁王と共にマフィアと戦う物語というだけでその荒唐無稽さが分かるというものです。
でありながら、痛快アクション小説として抜群の面白さを持っています。ただ、映画版は酷評されたようですが。
また、かなり前になりますが、冒険アクション小説と言えばやはり西村寿行が好きな作家でした。
なかでも『鯱シリーズ』は、仙石文蔵をリーダーとする天星、十樹、関根という四人の荒唐無稽なスーパーヒーローの活躍が爽快です。エロス満開ではありますが、アクション小説としても超一流だと思っています。