韓国の大物工作員キル・ホグン率いる最精鋭特殊部隊「消防士」が日本で韓国要人の拉致作戦を実行した。事件に巻き込まれ、人質となってしまった中学1年生の祐太朗。日本政府と警察は事件の隠蔽を決定した。祐太朗の母親で、かつて最愛の夫をキルに殺された元公安の秋来律子は、ワケあり担任教師の渋矢美晴とバディを組み、息子の救出に挑む。因縁の関係にある律子とキルの死闘の行方は、そして絶体絶命の母子の運命は―。(「BOOK」データベースより)
この作者の作品である『機龍警察』の持つ重厚なイメージを持って読むと、全く裏切られます。本作品は、ときにはコミカルに、ときにはハードに、またちょっとした遊びもある、まさに娯楽に徹したアクションエンターテインメント作品というべき作品なのです。
秋来祐太郎と神田麻衣は、韓国の特殊部隊がとある韓国要人を拉致する現場を目撃したために共に誘拐されてしまいます。そこで祐太郎の母親秋来律子と彼らの教師である渋矢美晴とが救出に向かう、というのが大まかな物語の流れです。
普通の母親と教師が、高度な訓練を受けた特殊部隊を相手に立ち回りを繰り広げようというのですから、普通の物語であるわけがありません。当然のことながらこの二人が「普通の一般人」であるわけがないのです。
即ち、祐太郎の母親の秋来律子は、元公安の、それも凄腕の捜査員であったという過去を持っていて、渋矢美晴は元ロックシンガーであり、祐太郎らの体育の教師であって、かつての彼氏である敏腕刑事から教わった格闘術で立ち向かいます。
こうした設定からも分かるように、本書は単純にストーリーに乗っかって楽しむべき類の作品です。いくら格闘術を習っていたとしても、一般素人の女性が高度な訓練を受けた特殊部隊隊員を相手に闘えるわけがないなどと、当たり前の感想を持ったりしてはいけないのです。
あくまで、アクションエンターテインメントとして素直に物語を楽しめばよく、そうすればかなりの爽快感を持って読了することができると思います。
そういうゆとりを持って読み進めると、本書は登場人物のキャラクターなどかなり書きこまれていて、感情移入しやすい物語であることはすぐにわかると思います。実際、316頁の新刊書という決して薄くはない本ではあるのですが、この手の作品の常として書会話文が多く、改行も多用してあるところから、かなり早いペースで読み終えることができました。
アクションエンターテインメントということで私の読書歴から既読作品を振り返ってみると、やはりまずは西村寿行の名があげられると思います。荒唐無稽な物語ではありながら、骨子がしっかりとしているためか純粋にエンターテインメントを楽しむことができる作品が多数あるのです。中でも突飛ではありますがアクション性を重視すると鯱シリーズということになるでしょう。仙石文蔵をリーダーとする天星、十樹、関根という四人の荒唐無稽なスーパーヒーローが活躍し、更にエロス満開のサービス付きです。『赤い鯱』を第一作とし、全十一巻になるシリーズで、その面白さは折り紙つきです。
荒唐無稽さという側面を重視し、ヒーローが活躍する小説ということに限定すると楡周平のCの福音を思い出します。大藪春彦が作り出した伊達邦彦や朝倉哲也などのヒーローを彷彿とさせてしまう朝倉恭介と川瀬雅彦という二人を主人公とする、Cの福音を第一作とする全六巻からなるアクション小説です。『Cの福音』に続く『クーデター』と読み進んでいるのですが、次第に面白くなっている感じがします。