本書『土漠の花』は、ソマリアに赴任している陸上自衛隊員を主人公とした長編のアクション小説で、日本推理作家協会賞を受賞した作品です。
重厚で存在感のある『龍機兵シリーズ』に比べ、よりエンターテインメントに徹した感のある、読みやすいアクション小説として仕上がっている。
ソマリアの国境付近で活動する陸上自衛隊第一空挺団の精鋭達。そこに命を狙われている女性が駆け込んだ時、自衛官達の命を賭けた戦闘が始まった。一人の女性を守ることは自分達の誇りを取り戻すことでもあった。極限状況での男達の確執と友情。次々と試練が降りかかる中、生きて帰ることはできるか?一気読み必至の日本推理作家協会賞受賞作!(「BOOK」データベースより)
本書が『龍機兵シリーズ』よりもエンターテインメント性が強いとはいっても、社会性が無いというわけではありません。
逆に、より現実に即した物語という意味では抱えるテーマは大きいかもしれません。
本書『土漠の花』の舞台となるソマリア及びジブチは、アフリカの東端に位置し、アラビア海に突き出した形状の半島の沿岸を占めています。
ソマリア(正式にはソマリア連邦共和国)は近年海賊の出没が問題となっていて、各国がその対策に苦慮している地域です。
本書の自衛隊も日本の船舶の護衛のために派遣されているのです。
本書で描かれている物語は、上記の海賊とは関係のない、内陸部で起きた自衛隊への襲撃事件についての話です。
フィクションではありますが、前述のように、本書『土漠の花』の提起する問題は大きいものがあります。
自衛隊員が事実上の軍隊、軍人として、外国で、外国の人間に対し現実に発砲するという事実がいかに大きなことであるか。
自衛隊員として他国の軍勢に対して発砲することが、国内的に、また国際的にさまざまな問題を巻き起こすであろうことは素人でも分かります。本書でも少しですが触れられています。
しかし、本書ではそれよりも、ひとりの人間として人を殺すことへの葛藤や、指揮官としての苦悩など、人間としての側面に焦点が当てられています。
「自衛隊というよりは人間として戦わざるをえない」状況だと、これは著者本人の言葉です。
残念なのは、本書『土漠の花』でのそうした問題への掘り下げがあまり深くは感じられないことです。それよりも、戦闘行為の描写に興味が移ってしまいます。
著者は多分、意識的に人間の内面の深みにまで踏み込むことを避けられたのではないでしょうか。
実際、インタビュー記事を読むと「現代社会のリアルな国際情勢を背景にしたエンタメの復権」などと著者本人が語られていたので、案外的外れでも無かったと思ったものです。
そういう「問題提起」という意味では、安生正の『ゼロの迎撃』の方が鋭かったかもしれません。
日本の都市部でのテロリストへの反撃行為自体の持つ法律的な問題点に対する掘り下げや、分析官である主人公の自分のミスに対する煩悶など、本書よりも緻密であったと思います。
この提起されている問題に対する関わりの浅さが残念ながら物足りなく思ってしまいました。でも、アクション小説としての面白さは十分なものがあります。そう割り切ってしまえば、かなり面白い物語でしょう。