経産省とフォン・コーポレーションが進める日中合同プロジェクト『クイアコン』に絡む一大疑獄。特捜部は捜査一課、二課と合同で捜査に着手するが何者かによって関係者が次々と殺害されていく。謎の暗殺者に翻弄される警察庁。だが事態はさらに別の様相を呈し始める。追いつめられた沖津特捜部長の下した決断とは―生々しいまでに今という時代を反映する究極の警察小説シリーズ、激闘と悲哀の第5弾。(「BOOK」データベースより)
機龍警察シリーズの五作目となる長編の冒険小説です。
ある中華料理店で会合を開いていた四人の男たちが殺されるという事件が起きます。その後に続く殺人事件などを調べていくうちに、日中合同プロジェクト『クイアコン』に絡む一大疑獄事件との関連が疑われることになります。
そこで、特捜部を中心にして警視庁の凶悪犯罪を扱う捜査第一課、知能犯罪を扱う捜査第二課、それに公安も含めた前代未聞の捜査本部が設置されることになるのでした。
こうして本書は通常の警察小説のような地道な捜査活動が中心となった物語として展開すると思っていました。
もともと、本シリーズはSF色が強い警察小説、それもアクション小説と言ってもいいほどに激しい戦闘場面の多い物語という、読者サービス満載の小説でした。その上、世界中の紛争地域で起きる悲劇などを盛り込んだヒューマニズムに富んだ小説でもありました。
ところが、本書ではSF色は後退し、警察小説としての、それも一級の面白さを持つ警察小説としての貌が前面に出てきて、龍機兵(ドラグーン)での戦いの場面はありませんでした。そうしたことから上記のような警察小説としての本書という印象を持つに至ったのです。
しかし、そこは月村了衛の作品であり、通常の警察小説では終わりません。
つまりは、捜査線上に浮かびあがってきた“狼眼殺手”という暗殺者との闘いが控えており、壮絶なアクション場面が控えていました。
本書では龍機兵の戦いこそありませんが、代わりにユーリやライザなどの龍機兵の操縦者たちがその本来の戦闘のプロとしての戦い方を十二分に見せてくれます。
更には、“狼眼殺手”という暗殺者に翻弄される警察の姿を通して、「警察」対「敵」の構図が明確になっていくなど、シリーズの根幹にかかわる展開も見逃せないものになっています。
そして、本書の敵役として登場する「フォン・コーポレーション」の実態解明というこのシリーズの特有の流れへとなっていくのです。
これまでは第一巻で「龍機兵(ドラグーン)」の活躍する世界やその属する警視庁特捜部、操縦者の姿俊之などの説明があり、以下巻を追うごとにライザ・ラードナー、ユーリ・オズノフ元警部、城木貴彦理事官と由起谷志郎警部補といった登場人物の過去などが語られてきました。
その上で、警視庁の内部にまで潜り込んでいるらしい「敵」の存在も示唆され、組織としての警察の姿などもシリーズの謎の一つとして示されていました。こうした「敵」に関する謎の一端が、本書に至り少しではありますが明らかにされています。
一作ごとに大きなテーマをもって語られてきた本シリーズが、本書に至り、エンターテイメント小説としての全貌を明らかにし始めたようでもあります。
警察小説として読むことになりそうと思いながら読み進めていた本書ですが、最終的にはやはり重厚感の漂う機龍警察シリーズらしい読み応えのある作品でしたし、シリーズとしての面白味が次第に大きくなり、次回作への期待が次第に増す一冊でした。