月村 了衛

イラスト1
Pocket

新刊書

実業之日本社

写真は Amazon にリンクしています。

楽天Booksは ビタートラップ [ 月村 了衛 ] へ。


ビタートラップ』とは

 

本書『ビタートラップ』は、新刊書で215頁の長編のエンターテイメント小説です。

月村了衛の描く軽く読めるエンターテインメント小説群の中の一冊で、単純に物語自体を楽しむべき、また楽しめる作品でした。

 

ビタートラップ』の簡単なあらすじ

 

わたしは中国の女スパイーノンキャリア公務員の並木は、恋人から告白される。狙われた理由は、上司から預かった中国語の原稿。両国組織を欺くために、ふたりは同棲を始めるが…。警視庁公安部から地下鉄で追尾され、中国の国家安全部からは拉致される。何が真実で、誰を信じればいいのか?実力派作家が放つ、大人のサスペンス。極上のビターがここにある。(「BOOK」データベースより)

 

与えられた仕事を淡々とこなすだけの公務員の仕事に違和感を抱くこともない毎日を送っていた並木は、付き合っていた中国人の彼女慧琳から意外な事実を打ち明けられた。

自分は並木が知人から預かった原稿を手に入れるために遣わされた中国のスパイであり、主人公の並木に対してハニートラップを仕掛けるために近づいたのだというのだ。

しかし、本当に並木に恋してしまい、嘘をついていることに耐えられなくなったという。

ところが、そんな並木に公安警察官を名乗る男が近づいてきて、女は並木の職場である農林省の情報を得るために接近したのであり、原稿の話は嘘だというのだ。

何が本当のことなのか、嘘に塗り固められた世界でどうすればいいのか、一人悩む並木だった。

 

ビタートラップ』の感想

 

月村了衛の作品には、重厚で読み応えのある『機龍警察シリーズ』のような作品群と、ガンルージュ』のような徹底してエンターテインメントに徹した読みやすい作品群とに分けられると思います。

本書『ビタートラップ』はそうした中でも軽く読める作品であり、後者に属する作品だと言えるでしょう。

 

主人公の並木承平は農林省勤務のノンキャリアの係長補佐であり、その彼女である黄慧琳は、並木の行きつけの中華料理店「湖水飯店」のアルバイト留学生です。

その慧琳が突然、自分は、並木が知り合いから預かっている原稿の所在、奪取のために送り込まれた中国のハニートラップだと言い始めたのです。

その並木には公安警察からの接触もあり、慧琳がハニートラップとして送り込まれたのは、並木の農林省勤務で知り得る農業技術の知識を得るためだというのでした。

こうして、並木は慧琳を信じることもできず、また公安警察官の男に対する疑惑もうまれてきて、誰を信じていいのか分からなくなります。

いち下級公務員が諜報戦のただなかに放り込まれたのですから、混乱するのも当然であり、この並木の様子が軽いユーモアをも交えて語られるのです。

 

このように、並木がハニートラップにかかったことを知ったり、並木に公安が接触してきたり、中国の工作員と直接に会うことになったりと、普通ではない状況がいとも簡単に襲い掛かってきます。

こうした物語の展開は、月村了衛のもう一つの作品群では考えられない展開であり、ある種のファンタジーとさえ言えます。

こうした気楽さだからこそ、その後の展開もまた気楽であり、読むほうも肩の力を抜いて軽く読むことができるのです。

 

このような気楽なタッチのエスピオナージと言えば、大沢在昌の気楽に読める長編小説である『俺はエージェント』がありました。

エージェントにあこがれる村井は、行きつけの居酒屋で親しくなった白川という爺さんのスパイ活動に巻き込まれ、あこがれのスパイ活動をすることになるというコメディタッチのスパイものの長編小説です。

この作品はコメディタッチではあるものの展開は意外性に満ちていて、かなり読みごたえのある作品でした。

 

 

では本書『ビタートラップ』に関して何の文句もないかというと、本書の結末のつけ方などには個人的にも少々疑問は残るものがあります。

しかし、本書のような作品は先にも書いたように物語世界に浸って気楽に読むべき作品でしょうから、そのストーリー展開の不都合さなどをあげつらっても仕方のないことでしょう。

慧琳という女性の優しさ、もしかしたらしたたかさに振り回される並木という男とともに、めまぐるしく展開する物語の流れに乗ってただ楽しめばよいと思うのです。

[投稿日]2021年12月17日  [最終更新日]2021年12月17日
Pocket

おすすめの小説

ユーモアたっぷりの冒険(?)小説

マル暴甘糟 ( 今野 敏 )
今野敏の人気シリーズの一つである『任侠シリーズ』の登場人物である、気の弱い甘糟達夫刑事を主人公として書きあげた小説で、本書を第一作としてシリーズ化されています。甘糟の相棒である郡原虎蔵は甘粕の先輩であり、マル暴刑事の典型のような男で、甘糟はいつもこの郡原刑事の顔色をうかがっているです。
国境 ( 黒川 博行 )
建設コンサルタント業の二宮と暴力団幹部・桑原の「疫病神コンビ」が“地上の楽園”である北朝鮮を舞台として繰り広げるコミカルな味付けのサスペンス小説。侵略ものとは言えませんね。
生活安全課0係 ファイヤーボール ( 富樫倫太郎 )
富樫倫太郎著の『生活安全課0係 ファイヤーボール』は、空気の読めないキャリアを主人公とした、コミカルな長編の警察小説です。
恋する組長 ( 笹本稜平 )
名前が示されない探偵を主人公とする全六話からなる連作短編小説です。“おれ”は、東西の指定広域暴力団と地場の組織が鎬を削る街に事務所を開く私立探偵。やくざと警察の間で綱渡りしつつ、泡銭を掠め取る日々だ。
きんぴか ( 浅田次郎 )
『きんぴか』は、浅田次郎のごく初期のユーモア長編小説です。既に今の浅田次郎の泣かせのテクニックや、見せ場の盛り上げ方などは備わっています。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です