大沢 在昌

魔女シリーズ

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過去と決別すべく“地獄島”を壊滅させ、釜山に潜伏していた水原は、殺人事件に巻き込まれるが、危ういところを上海から来た女警官・白理に救われる。白は家族を殺した黄に復讐すべく、水原に協力を依頼するが―。日中韓を舞台に、巨大な組織に立ち向かう女性たちを壮大なスケールで描く、『魔女の笑窪』の続編。(「BOOK」データベースより)

 

大沢在昌著の『魔女の盟約』は、『魔女シリーズ』第二弾の長編のハードボイルドエンターテイメント小説です。

 

前作『魔女の笑窪』で水原は、チョコレートショップの経営者という東山や九州の暴力団「要道会」と組んで「地獄島」を壊滅させるという拠に出ました。中国や韓国などの組織をも巻き込んだその事件のために、日本の警察や暴力団から追われる身となった水原は、日本を脱出し名も顔も変えて韓国に潜むことになったのです。

その韓国でこれまでの「地獄島」の行動の意味をなくしてしまうような殺人事件に巻き込まれた水原でしたが、上海から来た白理という女に助けられます。

その後、この女と行動を共にするうちに、「地獄島」の事件には裏があり自分は利用されたにすぎないことに気が付いた水原は、白理という女を助け、またこれからの自分が生きるために再び立ち上がります。

 

今回の水原は韓国や中国を舞台にしての活躍が大きな部分を占めています。

本書のあとがきを書かれている冨坂總氏は、「徹底したリサーチによって作品全体にちりばめられているディテールの細かさ」が、ストーリーを盛り上げてくれているといいます。

例えばとして、「上海の国家安全局と北京の安全局とのライバル関係をうまく展開に滑り込ませているあたり」は唸らざるを得ない、と書いています。

また、中国国内における少数民族の位置付け、中でも朝鮮族の扱いも絶妙だといい、さらには、韓国に持ち込まれるコピーブランドの工場が山東省に集中しているという設定も現実そのままであるといい、その取材力の確かさを称賛しているのです。

そうした緻密な取材の裏付けがあって初めて本作のような荒唐無稽な物語でありながらもエンターテインメントとしての物語のリアリティーが醸成されているということなのでしょう。

 

中国を舞台にした緻密な取材をもとにした作品といえば、 麻生幾の『ZERO』(幻冬舎文庫 全三巻)がありました。あの作品も公安警察の緻密な描写の先にあったものは中国本土での壮大なスケールの冒険小説としての展開であり、現地を正確に抑えた描写でした。

 

 

また、現地の調査という意味では 黒川博行の『国境』(文春文庫 全二巻)は北朝鮮を舞台にした物語でした。地理的な意味でもそうですが、それよりも組織としての北朝鮮の現状が詳しく描かれていたこの作品は、別な意味でも必見です。

 

 

ともあれ、本書の展開は第一作での水原の個人的な活動から「地獄島」への具体的な関りと移行していった前作とは異なり、日本の暴力団ももちろんのこと、韓国や中国のマフィアや更には中国の国家機関まで巻き込んだ壮大なものとなっています。

ただ、スケールが大きくなっている反面、その状況の説明のために頁数を割かなければならず、ストーリーを進めるうえでの登場人物や組織の説明が多く、今一つ物語としての面白さにのめり込みにくい印象はあります。

とはいえ、物語としての面白さがそれほど損なわれているわけではありませんので、これくらいは許容範囲でしょう。少なくとも私にとってはそうでした。

 

本書のような大人のファンタジー的な物語は受け入れがたいという人も当然いると思います。

しかしながら、丁寧な取材の元、きちんと構築された舞台設定の下で展開されるこうした荒唐無稽な物語を気楽に楽しむことこそがエンターテイメント小説という物語の醍醐味だと思っています。

そして、本シリーズはそうした期待に十二分に答えてくれる物語だと思うのです。

[投稿日]2019年04月28日  [最終更新日]2019年4月28日
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