大沢 在昌

魔女シリーズ

イラスト1
Pocket


自らの特殊能力―男をひと目で見抜く―を生かし、東京で女ひとり闇のコンサルタントとして、裏社会を生き抜く女性・水原。その能力は、「地獄島」での彼女の壮絶な経験から得たものだった。だが、清算したはずの悪夢「地獄島」の過去が、再び、水原に襲い掛かる。水原の「生きる」ための戦いが始まった。(「BOOK」データベースより)

 

大沢在昌著の『魔女の笑窪』は、『魔女シリーズ』の第一弾である長編のハードボイルドエンターテイメント小説です。

 

第一話では、知り合いのホテトル嬢が殺された裏を探り、犯人を探り出して報復をする様子が描かれます。その中で、主人公が男の精液の味について語る場面や、ヤクザを相手に一歩も引かずに渡り合う場面などが描かれながら、現在の水原の職業や過去の仕事、そして性格などを描写してあります。

その後第二話では、一年前に死んだ大物右翼の前田法玄の女房だった前田妙子という名の女が主人公水原の島のことなどの過去を知っていると現れます。

関東通信社の嘱託をしている湯浅という記者を何とかしてくれたら、養女になってもらうというのです。前田法玄のコネは魅力であり、島のことを知っている女ならば仲間になれるかもしれませんでした。

こうした物語の進展の中で、水原の男の中身を見抜くことのできる能力や、湯浅の写真から正体を探り出す仲間がいたりと、水原の本質が少しずつあきらかにされていきます。

第三話になると、第二話での前田が水原の過去を知ったルートを調べる中で浮かび上がってきた若名という風俗専門のライター中心の話になります。この若名は水原と同じような見ただけで女の本質を見抜く能力を持っていたのですが、この物語は第四章で少々切ない話として終わります。

こうして、将軍と呼ばれる香港の実力者(第五章)、豊国という整形外科の医師(第六・七章)、地獄島の番人(第八章)、地獄島(第九・十章)と話は進みます。

 

この物語の前半は主人公の水原中心のハードボイルド小説ですが、第六章あたりからアクション小説の趣を持ち始め、第八章からは完全にアクション小説と言ってもいいほどに物語の雰囲気が変わります。

とはいえ、主人公が積極的に拳銃を駆使して暴れまわる、というものではなく、拳銃を持ちはするものの、降りかかる火の粉を払いながら核心に迫っていいきます。

その過程で醸し出される雰囲気がまさにアクション小説と感じる描写だったのです。

ただ、アクション小説へと変化する過程は、水原の過去の亡霊に対面する苦悩と一致するようにも思えます。

 

この作品は水原という主人公のキャラクターのカッコよさにつきます。勿論彼女を助ける、第六話から登場してくる星川というおかまの探偵などの脇役たちも魅力的ですが。

ここまで体を張りながらもクールな女性主人公はそうはいないと思います。一番思い出したのはやはり月村了衛の『槐(エンジュ)』や『ガンルージュ』の主人公でしょうか。

 

 

しかしながら、『魔女シリーズ』の項でも書いたように、これらの作品は『明日香シリーズ』(角川文庫 シリーズ完全版【全4冊合本】Kindle版)の明日香により似ていると思うのです。

 

 

エンターテイメント小説としての王道をまっすぐに進む本書は、若干のファンタジー色を気にしない人であれば面白と感じること間違いのない小説だと思います。

[投稿日]2019年04月26日  [最終更新日]2023年5月6日
Pocket

おすすめの小説

女性を主人公に描いた推理小説

姫川玲子シリーズ ( 誉田 哲也 )
「姫川玲子シリーズ」の一作目であり、警視庁捜査一課殺人犯捜査係の姫川玲子を中心に、刑事たちの活躍が描かれます。若干猟奇的な描写が入りますが、スピーディーな展開は面白いです。
左手に告げるなかれ ( 渡辺 容子 )
「八木薔子シリーズ」の第一作です。女性万引Gメンの八木薔子を主人公とする長編推理小説で、第42回江戸川乱歩賞を受賞した作品です。かつての不倫相手の妻が殺され、自分の無実を証明するために犯人探しに乗り出す八木薔子の活躍が描かれています。
アウトバーン 組織犯罪対策課 八神瑛子 ( 深町 秋生 )
真相究明のためなら手段を選ばず、警視総監賞や方面本部賞を何度も受けている警視庁上野署組織犯罪対策課の美人刑事八神瑛子が躍動する、ジェットコースター警察小説。
合理的にあり得ない 上水流涼子の解明 ( 柚月 裕子 )
もと弁護士の上水流涼子と、その助手貴山の、依頼者のために頭脳を絞り出します。知的ゲームを楽しむ六編の短編からなるミステリー小説集です。
探偵は女手ひとつ ( 深町 秋生 )
『果てしなき渇き』で第3回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞した深町秋生の、椎名留美という女性が主人公であるハードボイルドの六編からなる連作の短編小説集です。

関連リンク

2009年2月号掲載 著者との60分『魔女の笑窪』の大沢 在昌さん
最初は読切りのつもりで書いたんです。それがヒロインの水原というキャラクターが女性編集者に評判がよくて、次を読みたいという声も多くいただいたものですから、ぽつぽつと続きを書いていった結果、単行本にたどり着いたという感じです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です