大沢 在昌

魔女シリーズ

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魔女の笑窪』とは

 

本書『魔女の笑窪』は『魔女シリーズ』の第一弾で、2006年1月に文藝春秋からハードカバーで刊行され、2009年5月に文春文庫から419頁の文庫として出版された、連作のハードボイルド短編小説集です。

女性を主人公にしたハードボイルド小説ですが、かなり惹き込まれて読んだ作品でした。

 

魔女の笑窪』の簡単なあらすじ

 

自らの特殊能力―男をひと目で見抜く―を生かし、東京で女ひとり闇のコンサルタントとして、裏社会を生き抜く女性・水原。その能力は、「地獄島」での彼女の壮絶な経験から得たものだった。だが、清算したはずの悪夢「地獄島」の過去が、再び、水原に襲い掛かる。水原の「生きる」ための戦いが始まった。(「BOOK」データベースより)

 

魔女の笑窪』の感想

 

本書『魔女の笑窪』は、『魔女シリーズ』の第一弾である短編のハードボイルドエンターテイメント小説集です。

主人公は水原という元売春婦であったという経歴を持つ、洞察力に優れた能力を持った女です。

 

第一話では、知り合いのホテトル嬢が殺された裏を探り、犯人を探り出して報復をする様子が描かれます。その中で、主人公が男の精液の味について語る場面や、ヤクザを相手に一歩も引かずに渡り合う場面などが描かれながら、現在の水原の職業や過去の仕事、そして性格などを描写してあります。

その後第二話では、一年前に死んだ大物右翼の前田法玄の女房だった前田妙子という名の女が主人公水原の島のことなどの過去を知っていると現れます。

関東通信社の嘱託をしている湯浅という記者を何とかしてくれたら、養女になってもらうというのです。前田法玄のコネは魅力であり、島のことを知っている女ならば仲間になれるかもしれませんでした。

こうした物語の進展の中で、水原の男の中身を見抜くことのできる能力や、湯浅の写真から正体を探り出す仲間がいたりと、水原の本質が少しずつあきらかにされていきます。

第三話になると、第二話での前田が水原の過去を知ったルートを調べる中で浮かび上がってきた若名という風俗専門のライター中心の話になります。この若名は水原と同じような見ただけで女の本質を見抜く能力を持っていたのですが、この物語は第四章で少々切ない話として終わります。

こうして、将軍と呼ばれる香港の実力者(第五章)、豊国という整形外科の医師(第六・七章)、地獄島の番人(第八章)、地獄島(第九・十章)と話は進みます。

 

この物語の前半は主人公の水原中心のハードボイルド小説ですが、第六章あたりからアクション小説の趣を持ち始め、第八章からは完全にアクション小説と言ってもいいほどに物語の雰囲気が変わります。

とはいえ、主人公が積極的に拳銃を駆使して暴れまわる、というものではなく、拳銃を持ちはするものの、降りかかる火の粉を払いながら核心に迫っていいきます。

その過程で醸し出される雰囲気がまさにアクション小説と感じる描写だったのです。

ただ、アクション小説へと変化する過程は、水原の過去の亡霊に対面する苦悩と一致するようにも思えます。

 

この作品は水原という主人公のキャラクターのカッコよさにつきます。勿論彼女を助ける、第六話から登場してくる星川というおかまの探偵などの脇役たちも魅力的ですが。

ここまで体を張りながらもクールな女性主人公はそうはいないと思います。一番思い出したのはやはり月村了衛の『槐(エンジュ)』や『ガンルージュ』の主人公でしょうか。

 


 

しかしながら、『魔女シリーズ』の項でも書いたように、これらの作品は『天使の牙シリーズ』(角川文庫 シリーズ完全版【全4冊合本】Kindle版)の明日香により似ていると思うのです。

 

 

エンターテイメント小説としての王道をまっすぐに進む本書『魔女の笑窪』は、若干のファンタジー色を気にしない人であれば面白と感じること間違いのない小説だと思います。

[投稿日]2019年04月26日  [最終更新日]2024年6月25日

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2009年2月号掲載 著者との60分『魔女の笑窪』の大沢 在昌さん
最初は読切りのつもりで書いたんです。それがヒロインの水原というキャラクターが女性編集者に評判がよくて、次を読みたいという声も多くいただいたものですから、ぽつぽつと続きを書いていった結果、単行本にたどり着いたという感じです。

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