甲府市内で幼い姉妹二人の殺害事件が発生し、その母親が犯人の疑いをかけられていた。日本新報甲府支局のサツ回り担当の南は本社復帰への足がかりにと取材していたが、警察内部のネタ元から母親逮捕の感触を得る。特ダネであるその情報は、しかしとんでもない事態を引き起こすのだった。
最初は普通のミステリーとして、犯人と目されている母親とは別に意外な犯人像を持ってくる、くらいの軽い気持ちで読み進めました。しかし、途中からどうも雲行きが怪しくなります。それが、ネット社会や報道のあり方への問題提起でした。でも、物語としてはそこから更により大きな問題を見据えていることに気づきます。
話はの視点は日本新報の南という記者から南の恩師である高石のそれへと変わっていきます。ここから例の朝日新聞の誤報問題へとつながるテーマが浮かび上がってくるのです。小説の設定としては勿論全く異なる状況ではあるのですが、構造は朝日新聞の問題と似たものを持っているのです。
本書は直接には表現の自由の一環としての「報道」のあり方について考えさせられる作品です。「報道の自由(表現の自由)」は民主主義の根幹をなす重要な権利であり、報道の自由が確保されないところに国民の知る権利は絵に書いた餅にすぎなくなります。近時わが国でもきな臭さを感じないこともないのですが、本書を読んでいると、そうしたことまで考えてしまいます。
ここで表現の自由をテーマにした小説として有川浩の『図書館戦争』が思い浮かびました。こちらはより娯楽性の強い物語で、直接的に図書館を守ろうとする図書隊という武装組織を設定し、そこに恋模様を絡ませながら楽しく読める物語として仕上げられています。岡田准一と榮倉奈々を配して映画化もされました。
より大きく、社会的なテーマを潜ませた小説をみると、名作と言われるものが数多くあります。古くは松本清張の『砂の器』や高木彬光の『白昼の死角』に近時では雫井脩介の『検察側の罪人』や柚月裕子の『最後の証人』などが面白く読んだ小説と言えるでしょうか。