麻生 幾

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幻冬舎

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一九四七年の誕生以来、存在自体が国家機密という厚いベールに包まれた全国公安警察の頂点“ZERO”。だがその極秘組織もその巨大さゆえ時代に適合できなくなっていた。そんな時、警視庁公安部外事二課で中国を監視してきたウラの捜査官・峰岸智之は中国大使館による大掛かりな諜報活動事件の端緒を掴むが…。日本スパイ小説の大収穫。( 上巻 : 「BOOK」データベースより)

47年の封印が解かれ、日本を震撼させる陰謀の幕が開く。立ち向かう、一人の警察官・峰岸。彼は元警視庁長官・鹿取が運営してきた大物スパイを巡り、すべてのウラ情報を握ろうとする“ZERO”と激突する。執拗な妨害を受けながらも捜査を強行する峰岸を苛酷な運命が待ち受けていた…。極秘情報をちりばめ警察小説の新境地を拓く衝撃作。( 中巻 : 「BOOK」データベースより)

峰岸を呑み込む欺瞞と敵意に満ちた世界。様様な罠、裏切りの連続。孤立無援の公安警察官と中国諜報責任者との激闘。日本の機密漏洩者と中国側ディープスロートの正体とは?水面下の戦争が国家に大いなる決断を求める時、男は誇りのため、女は愛のため命を賭ける。逆転に次ぐ逆転、驚異の大どんでん返し。エンターテインメント小説の最高峰。( 下巻 : 「BOOK」データベースより)

 

文庫本全三冊で合計1500頁を軽く超える、日本の諜報組織に属する一人の男の活動を描き出す長編の冒険(警察)小説です。

 

本書で描き出される世界は偏執的といえるほどに緻密です。それは登場人物らの行動を描く時もそうですし、紹介されるハード面の描写にしても同様です。

そのためなのか、本書で描かれる世界についての信憑性は絶大なものを感じます。公安警察の対象者に対する行動確認作業や対象者の篭絡作業などの実際はここで描かれている通りなのだろうと思えるのです。

以前、 黒川博行の『疫病神シリーズ』を読んだ時にも、状況を緻密に描き出すその描写に驚いたものですが、本書の場合、そのさらに上を行きます。

とくに、本書『ZERO』の第二巻から第三巻目にかけての主人公の中国国内での逃避行の描写は、『疫病神シリーズ』の第二作目である『国境』での北朝鮮での描写を思い出してしまいました。ともに、綿密な取材の結果を綿密に反映してあり、その筆力に似たものを感じたのです。

 

ところが、この緻密さはまた非常な読みにくさも併せ持っています。

例えば、本書の第一章では主人公である峰岸智之警部補のもとに集結している二十五名の作業班員が特定の視察対象者を追尾する様子を描いてありますが、この第一章を読み通すことができずに投げ出してしまう読者も多いのではないでしょうか。

この第一章では、追尾の事情は明かされていないために読者は単に作業班員らの行動を見守ることしかできません。結局第一章の八十頁余りをわけもわからないままに読み進めることになります。最後にこれまでの行動の意味が明かされるのですが、そこまでたどり着かないのではないかと危惧するのです。

 

本書での作者の描き方は最後まで同じです。主人公らの行動の意味は物語が進む中で次第に明らかになるだけで、前もっての説明はほとんどありません。その上での状況や人物らの行動の詳細かつ執拗な描写が続きます。

読者にとって、前提知識のないままの詳細な描写は少々戸惑いばかりがあり、物語の流れをしょっちゅう見失いがちになります。いや、実際ストーリーが分からなくなり、読み返すことが何度かありました。

とにかく、登場人物も多数に上り、裏切りの連続はその多数の登場人物相互の関係性をさらに分かりにくくしているのです。

そういう意味では実に不親切な作品といえます。しかしながら、前述のように作者の綿密な取材の上に展開される緻密な描写は非常なリアリティを生み、現実の公安職員らの行動もかくあるのだろうと確信するでしょう。

そのうえで、物語は意外な展開を見せ始めます。

 

そもそも、本書の『ZERO』というタイトルにもかかわらず、ZEROという組織は主人公に対立する存在として現れます。本書で描かれているのは警察庁の組織である「ZERO」ではなく、警視庁公安部外事第二課所属の警察官の行動なのです。

つまり、本書のタイトルは、その存在意義がなくなったとして解体される運命にある組織の名称であり、ある種、日本の諜報組織の現状を暗示してもいるというところでしょうか。

 

日本の諜報組織を描き出した作品として思い浮かぶのは、まさに現役の公安警察員であった作者 濱嘉之が描き出す作品群です。それは、例えば『警視庁情報官シリーズ』であり、国家の存立のための情報収集という組織の存在理由を前面に、通常の警察小説とはその趣を異にし、これまでの公安小説とは一線を画す、リアリティに富んだ小説でした。

 

 

また、同質のリアリティをもつ公安警察を描く作家として 竹内明という作家がいます。TBSテレビの報道局記者ととしての経歴を持つ人で、『背乗り ハイノリ ソトニ 警視庁公安部外事二課』などの作品を挙げることができます。

 

 

一方、本書『ZERO』などとは対極にある公安警察小説を書かれているのは 今野敏という作家さんです。この人の書く『倉島警部補シリーズ』や『同期シリーズ』などで描かれる公安警察の世界は、いかにもこの作家の世界らしく非常に読みやすく、面白い小説として仕上がっています。

 

[投稿日]2018年12月08日  [最終更新日]2018年12月8日
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