『アキハバラ』とは
本書『アキハバラ』は『警視庁捜査一課・碓氷弘一シリーズ』の第二弾で、1999年4月にC★NOVELSから刊行されて2016年5月に中央公論新社から新装版として403頁で文庫化された、長編の警察小説です。
通常の警察小説とは異なり、多数の登場人物が入り乱れてアクションを繰り広げるノンストップ・アクション小説で、気楽に読めた作品でした。
『アキハバラ』の簡単なあらすじ
大学入学のため上京したパソコン・オタクの六郷史郎は、憧れの街・秋葉原に向かった。だが彼が街に足を踏み入れると、店で万引き扱い、さらにヤクザに睨まれてしまう。パニックに陥った史郎は、思わず逃げ出したが、その瞬間、すべての歯車が狂い始めた。爆破予告、銃撃戦、警視庁とマフィア、中近東のスパイまでが入り乱れ、アキハバラが暴走する!(「BOOK」データベースより)
『アキハバラ』の感想
本書『アキハバラ』は『警視庁捜査一課・碓氷弘一シリーズ』の第二弾の警察小説です。
しかし、シリーズ前作の『触発』とは異なり、多数の登場人物が入り乱れてアクションを繰り広げるエンターテイメント小説となっています。
つまり、秋葉原のあるビル内で様々な登場人物により息もつかせないアクションが展開される、気楽に読めるノンストップ・アクション小説でした。
解説の関口笵生氏によれば、本書は「ピタゴラスイッチ小説、もしくは風が吹けば桶屋が儲かる小説」と表現されています。
本シリーズの主役である碓氷弘一部長刑事が登場するのは物語の中盤あたりからです。
それまでは大学生の六郷史郎がメインで描かれ、そこにラジオ会館ビルの四階にある小さなパーツショップに勤める石館洋一や、その店に派遣されていたキャンペーンガールの仲田芳恵などが絡んできます。
そこにそのパーツショップに金を貸しているヤクザの菅井田三郎、その子分の金崎などが登場し、さらには、ラジオ会館ビルでいたずら心からイスラエルのモサド諜報員のアブラハム・ベーリ少佐に発砲事件を起こさせたイラン航空のスチュワーデスでもある諜報員のファティマ、ロシアンマフィアのアレキサンドル・チェルニコフ、殺し屋のセルゲイ・オルニコフなどが入り乱れてアクションを繰り広げるのです。
このように、本書はシリーズ前作の『触発』で描かれた爆弾魔とのシリアスな対決とは異なり、ヤクザやテロリスト、果ては各国の諜報員まで登場する荒唐無稽な設定となっています。
またシリーズの主人公である碓氷弘一部長刑事も前作での設定とは若干異なる性格設定をしてあります。そもそも碓氷刑事は本書中盤までは登場してきません。
登場してきても遊軍的な立場としているのであり、応援の管理官が登場すると一線からは外されてしまいます。
ところが、前作では定年まで無事勤め上げることを願うサラリーマン的な刑事という設定でしたが、本作ではそれなりの使命感を持った刑事として個人で乗り込むのです。
若干、性格が異なるような気もしますが、それは前作『触発』での主人公の体験が生きてきたとも言えそうです。
でも、本書が荒唐無稽な設定だとはいえ、作者の今野敏の視点は変わりはありません。
日本は銃声がしても誰も床に伏せようともしない国だという指摘し、警察官に対しても、銃を構えた人物に対し止まれと言ったり、今から拳銃カバーを外そうとしたり、また拳銃で身を守ることよりも拳銃を盗まれることに神経を使っているなどと言わせています。
そうした指摘はテロリストの目線でなされており、そのテロリストは「血と硝煙。その中で生きているのだ。」と独白しているのです。
そうした作者の目線とは別に、秋葉原という街に対する作者なりの愛着もあるのかもしれません。
電子部品を販売する秋葉原の最も深いところにある店の主人の小野木源三という人物を登場させて碓氷部長刑事の活躍を助けるのも、そうした愛着の表れではないでしょうか。
以上、碓氷刑事の性格は若干異なるものの、ノンストップアクションを展開させる、気楽に読める作品でした。