本書『ブルーマーダー』は、『姫川玲子シリーズ』の第六弾となる、文庫本で470頁余りの長さの長編の警察小説です。
「ブルーマーダー」とは連続殺人鬼のことであり、本書は彼の生き方を中心としたサスペンス小説として仕上がっていますが、あい変わらずにテンポのいい物語です。
池袋の繁華街。雑居ビルの空き室で、全身二十カ所近くを骨折した暴力団組長の死体が見つかった。さらに半グレ集団のOBと不良中国人が同じ手口で殺害される。池袋署の形事・姫川玲子は、裏社会を恐怖で支配する怪物の存在に気づく―。圧倒的な戦闘力で夜の街を震撼させる連続殺人鬼の正体とその目的とは?超弩級のスリルと興奮!大ヒットシリーズ第六弾。(「BOOK」データベースより)
本書もまた誉田哲也作品の一つの特徴である複数の視点からなる物語です。
物語の中心にいるのが「ブルーマーダー」であり、彼が何故に凄惨としか言いようのない殺し方で暴力団組長や半グレ、不良中国人などを殺しているのかが語られていきます。
とはいえ、その点を謎としたミステリーとしてではなく、「ブルーマーダー」と、彼を追う姫川たち警察官の追跡が、視点を変えながらサスペンスフルに描かれていきます。
視点の一つは現在は中野署刑事組織犯罪対策課・暴力犯捜査係担当係長にいる下井正文警部補の視点であり、元警察官である木野一政とのつながりなどが語られています。
次いで、二代目庭田組組長の河村丈治の殺害事件を担当する姫川玲子ら捜査本部の面々の様子があり、三番目の視点として岩渕時生という逃走犯を追う菊田和男の姿、最後にマサと呼ばれる男とマサの道具を作り手伝うおっさんの姿があります。
これらの四つの視点が交互に語られながら物語は進みます。
本書は、シリーズとして見ると、第四作目の『インビジブルレイン』でバラバラになった姫川班のその後の姿が描かれていることになります。
姫川玲子は池袋署刑事課強行犯捜査係担当係長になっており、菊田和男は千住署刑事組織犯罪対策課組織犯罪係に配属されているのです。
また、本書の視点の一つにもなっている下井正文警部補は、『インビジブルレイン』で姫川の相棒として登場しています。
その他の大きな変化としては菊田が結婚していることが挙げられます。奥さんの名前は「梓」といい、新婚の二人の様子も少しではありますが描いてあります。
ちなみに、この菊田梓は誉田哲也の『もう聞こえない』という本『姫川玲子シリーズ』外の作品で竹脇警部補の相棒として重要な役目を果たす存在として登場しています。
そこでは本シリーズの菊田和男の妻と明言はしてありませんが、多分そうだろうと思えるのです。
ついでに言うと、前巻のシリーズ第五巻『感染遊戯 』は本シリーズのスピンオフ作品であり、シリーズ内での時系列上の位置は不明ですが、第三話の「沈黙怨嗟 / サイレントマーダー」において、『インビジブルレイン 』での姫川班解体後の葉山則之が登場しています。
話を元に戻すと、本書ではブルーマーダーという殺人鬼が社会の闇に住む暴力団組長や半グレ集団のメンバーなどを残虐な方法で殺していきます。
ブルーマーダーとは何者なのか、という疑問と共に、彼は何故殺すのか、それも何故普通ではない殺し方をするのか、更には死体を処分することもあれば、放置し発見されるままにしていることもあるのは何故か。
そんないくつかの疑問が浮かんでくるのですが、先にも述べたようにその謎解きそのものは本書の主軸とは思えません。
本書で描かれているのは次にどのような展開になるのか、というサスペンス感満載の物語だと言えるでしょう。
このことは本書に限りません。つまりは、誉田哲也という作家の作品はストーリーが面白いのです。
もちろん仕掛けられた謎解きそのものにも大きな関心はありますが、ストーリーが第一義であって、謎自体はストーリー展開の要素にすぎないと思えるのです。
本書でもブルーマーダーという人物の派手な行為に隠された彼の、怒りや憎しみ、恨みなどの思いそのものが物語の中心にあって、そんな彼の思いを探る物語として成立していると言えるのです。
『インビジブルレイン』でバラバラになった元姫川班ですが、姫川玲子自身は、本書『ブルーマーダー』続巻のシリーズ第七弾『インデックス』第四話「インデックス」で、池袋署刑事課強行犯捜査係との併任ではありますが、本部の刑事部捜査一課への異動の内示を受けることになります。
そこでは、本書の「ブルーマーダー」事件の事後処理をすることになります。ただ、本書でも冒頭と最後に登場するあの井岡博満も同じく併任配置となるのですが。
まだまだ目が離せないこの『姫川玲子シリーズ』です。続刊の刊行を心待ちにしたいと思います。