『ソウルケイジ』とは
本書『ソウルケイジ』は『姫川玲子シリーズ』の第二弾で、2007年3月に刊行されて2009年10月に438頁で文庫化された、長編の警察小説です。
第一弾である前作『ストロベリーナイト』に比べ、ミステリー色がより強い王道の警察小説ともいえる作品でした。
『ソウルケイジ』の簡単なあらすじ
多摩川土手に放置された車両から、血塗れの左手首が発見された!近くの工務店のガレージが血の海になっており、手首は工務店の主人のものと判明。死体なき殺人事件として捜査が開始された。遺体はどこに?なぜ手首だけが残されていたのか?姫川玲子ら捜査一課の刑事たちが捜査を進める中、驚くべき事実が次々と浮かび上がるー。シリーズ第二弾。(「BOOK」データベースより)
『ソウルケイジ』の感想
本書『ソウルケイジ』は、誉田哲也の作品にしては静かな作品でした。変な書き方ですが、警察小説としての地道な捜査模様が描かれています。
誉田哲也にしてはそれだけおとなしい物語だということです。強烈な暴力の場面も人体の解体場面も出てきません。ただひたすらに事件の解明へと向かう姫川玲子らの姿が描かれています。
ただ一個所だけ手首を切り落とす場面がありますが、それもほかの作者の作品でも少々刺激的な場面としてありうる程度のものです。
そうしたバイオレンス場面の代わりに、玲子らの地道な捜査の過程が描かれているのです。
姫川玲子自身の捜査状況と、玲子がライバルと目している警視庁捜査一課日下班の班長である日下守警部補の捜査状況とを描くことで地道な捜査に変化をつけ、さらに、この二人の捜査方法を両立させることで物語に幅を持たせています。
その上で、玲子が苦手とし、何かと反目していると思っている日下との緊張関係を演出することで、事件の捜査に加え、この二人の関係性という観点を持ち込んで物語を興味深いものとしていると思えます。
そしてもう一点。何故か今回も玲子と組むことになった井岡博満との漫才のような掛け合いが非常にコミカルに描写され、それがなかなかに効いています。
何かと暗くなりがちな物語の進行ですが、そこに井岡という存在があり、井岡が場を読まない台詞を発することに対し、玲子が強烈な一発を返すことでその場面の空気感を一気に和ませてくれます。
この井岡に関しては、テレビドラマや映画で井岡役を演じた生瀬勝久という役者さんが演技も上手く、またあまりにもイメージがピタリと合っているので、読んでいていつも彼の顔が浮かんでいました。
そして、そのことが邪魔にならず、物語の世界に没入する手助けをしてくれるのです。
その他に、玲子と菊田との恋の駆け引きとまではいかない、恋心の芽生えのときのような会話の妙などもまた物語作家としての誉田哲也のうまさを感じさせてくれます。
本書『ソウルケイジ』でももちろんと言っていいものか、誉田哲也タッチともいうべき視点の転換が駆使されています。
三島耕介という青年の視点や、高岡賢一という男の視点が事件とどのように関わってくるものなのか、最後まで読者の関心を引き付けて離しません。
最後に、本書『ソウルケイジ』というタイトルの意味について、フリーランスライターのタカザワケンジという人物が「解説」において、スティングの「The Soul Cages」というアルバムについて書いておられます。
「父性」という言葉がそのカギになっていると書いておられるのですが、一度聞いてみたいものです。